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お庭の健康診断・土壌分析で見る庭園環境の改善計画

  • 執筆者の写真: 三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店 剪定屋空
    三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店 剪定屋空
  • 1 日前
  • 読了時間: 9分


四日市港にある歴史的建造物「YOKKAICHI HARBOR 尾上別荘」の庭園風景。



三重県庭園管理

四日市港に位置する「YOKKAICHI HARBOR 尾上別荘」は、明治時代の名士・小菅剣之助氏の自邸を改装した結婚式場です。https://restaurant-onoebesso.zetton.co.jp




小菅剣之助氏(1865~1944)は明治から昭和にかけて活躍した実業家で、四日市の港湾整備や工業発展に大きく貢献し、政財界で尽力した人物でした。https://www.senteiyasora.com/post/三重県四日市市尾上別荘庭園管理



三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店剪定屋空

尾上別荘は、美しい日本庭園に囲まれており、現在も歴史的価値を伝える空間として訪れる人々を魅了しています。


剪定屋空はこの貴重な庭園管理を2024年5月より任されており、歴史ある庭園に現代的な管理手法を取り入れる試みに日々取り組んでいます。


庭園管理において土壌改良は頻繁に行われる作業ですが、その効果を科学的に検証する機会は限られています。私たち剪定屋空では「感覚」や「経験」だけに頼るのではなく、明確な根拠に基づいた庭園環境の改善を目指しています。


今回実施した土壌分析は、単なる一時的な診断ではなく、定期的に行わせていただく予定です。


この科学的アプローチにより、施工効果の可視化と長期的な庭園環境の健全化への道筋を示すことができます。




庭園の健康診断:土壌分析庭園の健康診断結果


尾上別荘庭園内の代表的な5箇所で土壌採取を行い、分析した結果になります。

採土日2025年4月30日 分析日2025年5月13日


庭園土壌分析

1. 土壌の酸性度(pH)

  • pH約5.6(適正範囲6.0〜7.0を下回る)

  • 塩化カリウム法による測定(KCI)でもpH約4.6と酸性寄り。


    土壌が少し酸性に傾いています。現在のpH値は5.6で、理想的な6.0〜7.0より低めです。これにより、一部の植物の栄養吸収が妨げられている可能性があります。尾上別荘の土壌が酸性化した要因として、以下の3つの要素が複合的に作用していると考えられます。


    海塩による影響:潮風により供給される塩化ナトリウムが、土壌中の塩基性陽イオンを流亡させる。


    地質学的背景:三重県の花崗岩質基盤が風化により酸性鉱物を生成。


    生物学的要因:150年間の植物活動による有機酸の蓄積



2. 栄養バランスの状態

  • リン酸(P₂O₅):10.1 mg/100g(適正30〜80 mg/100gの約1/3)


    お庭の土は、植物が健やかに育つために必要な「リン酸」が不足しています。リン酸は植物の根の発達や花芽形成を助ける大切な栄養素です。現在の数値(10.1)は理想的な範囲(30〜80)を下回っており、植物の生育に影響が出ている可能性があります。 


  • カリウム(K₂O):21.8 mg/100g(適正65〜85 mg/100gの約1/3)

  • カルシウム(CaO):169 mg/100g(基準の約半分)

  • マグネシウム(MgO):21.5 mg/100g(基準の約1/3)

  • CEC(養分保持力):15.5 meq/100g(理想20〜30 meq/100g)養分を保持する力がやや低く、施肥の効果が流出しやすいです。


土壌中のミネラルバランス(カリ・石灰・苦土)にも偏りが見られます。長年十分な施肥が行われてこなかったため、主要3要素すべてが著しく不足しています。




3. 土の物理的な状態について

  • 固相率:53.1%(理想40〜45%より高く、土が詰まり気味)

  • 液相(水分):12.2%(適正の半分程度で乾きやすい)

  • 気相(空気):34.7%(わずかに基準値を上回る)

  • 容積重:1.61 g/cm³(高め・締まりが強い)


お庭の土は少し「硬く締まりすぎている」状態です。固相率(土の粒子が占める割合)が53.1%と高く、理想的な40〜45%より固くなっています。また、水分を保持する力を示す液相率も12.2%と低め(理想は25〜30%)です。 


→ 土が固くて水が浸みにくく、根の伸びや微生物の棲みかとしては不利です。 団粒構造を回復させる 改良が必要です。




対策案


土壌分析

  1. 酸度調整:石灰資材を施してpHを中性寄りに上げる。酸性を好む植物の近くは避ける。


  2. 養分補給:特にリン酸と塩基性養分(カルシウム・マグネシウム・カリウム)を重点的に施肥。


  3. 有機物投入:腐葉土や堆肥、バーク堆肥で有機物を増やし、微生物を活性化。


    固相率が高く団粒崩壊が懸念されるため、完熟堆肥や落ち葉堆積物など有機質資材を土壌に鋤き込みます。これにより土壌に団粒構造が回復し、孔隙に適度な余裕が生まれて土壌密度の低下と保水性の向上が期待できます。


    有機物は微生物の餌にもなり、地力を養います。極端な硬さが見られる箇所では、土を掘り起こして軽く客土改良することも検討しますが、既存樹木の根を傷めない範囲で丁寧に行います。


  4. 物理改良


    細かい根が広がるよう、土壌改良材で団粒構造を改善などが有用。


  5. pHと塩基バランスの是正


    pH5台の酸性土壌について、庭園内の植栽に酸好性(酸性土を好む)植物が多いかを考慮します。ツツジやサツキ、シャクナゲ、アジサイなど酸性を好む植物であれば、無理にpHを中性まで上げる必要はありません。しかし多くの庭木や芝生は弱酸性~中性を好むため、全体としてはpHを6前後まで緩やかに是正する。


  6. 苦土石灰などを少量ずつ施用してカルシウム・マグネシウムを補給しつつ土壌を中和します。分析ではカルシウムやマグネシウムが著しく不足しており、塩基飽和度を50%未満から105%程度まで高めることが推奨されています。


    これは現状の約倍量の塩基を補給することを意味しますが、一度に大量の石灰を投入すると急激なアルカリ化で生態系にストレスを与えかねないため、年に数回、少量ずつ施す方法を取ります。こうすることで土壌pHをじわじわと是正し、根圏の環境を改善します。


    土壌反応と変化の詳細


    pH調整機構

    苦土石灰、木灰、バイオチャコールのアルカリ性成分(CaO、MgO、K₂O)が土壌の酸性を中和し、pH6.0-7.0の植物にとって理想的な範囲へ調整されます。この過程で土壌コロイドの表面電荷が変化し、養分保持能力が向上します。


    腐植複合体の形成

    ユーキフルペレットの腐植酸(50-60%)とフルボ酸が、苦土石灰のカルシウムイオンと結合し、腐植-Ca複合体を形成します。これにより土壌の団粒構造が改善され、保水性と排水性の両立が実現されます。



    炭素循環の活性化

    • バイオチャコール(炭素70-90%):長期間安定な炭素貯蔵

    • ユーキフルペレット(有機炭素30-40%):微生物活動の促進

    • 骨粉(有機炭素20-30%):緩効性養分供給


    この3層構造により、土壌微生物の多様性が向上し、自然界の炭素循環を模倣した持続可能な土壌環境が構築されます。


    養分供給システム

    即効性養分(木灰のK₂O:5-15%) 緩効性養分(骨粉のP₂O₅:12-18%、N:2-4%) 超長期安定養分(バイオチャコールに吸着された微量要素)


    生物活性の向上

    腐植酸のキレート作用(有害な重金属と結びつく効果)により、鉄、マンガン、亜鉛等の微量要素が植物に吸収されやすい形態に変化します。同時に、骨粉の有機窒素が土壌微生物により段階的に分解され、根圏環境の生物多様性が向上します。


    この混合資材は、酸性土壌改良に特に有効であり、マツ、サクラ、モミジ等の在来樹種の根系発達を促進します。また、ビオトープ管理においても、水質浄化機能を持つ湿地植物の生育基盤として効果を発揮します。


    施工上の留意点


    • 混合比は土壌分析結果に基づき調整

    • 深度20-30cmまで均一に混合

    • 施工後2-3週間の馴染み期間を設ける



    土壌の物理性改善資材等


    土壌の物理性改善資材等

    • フミンZorユーキフルペット

      • 団粒形成を促進し、微生物のエネルギー源に。水分保持と通気性を両立。

      • 散布量:1㎡あたり2 kg(30aで600 kg)

      • 作業:表土10–15 cmを軽く掻き起こし、均一に浅く混和


    • もみ殻くん炭orバイオチャコール

      • 多孔質構造で通気性・排水性を向上し、微生物の棲みかに。

      • 散布量:1㎡あたり500 g(30aで150 kg)

      • 作業:ユーキフルペットなど他の資材と混合して土壌撹拌


    • エアレーション

      • 圧密を緩和しマクロポア(植物の根の跡やミミズなどの移動した跡など、植物や動物によって形成された土中の大きな間隙)を回復、根張り促進。


    pH調整と栄養バランス改善

    • 苦土石灰

      • pHを穏やかに中和し、カルシウム・マグネシウムを同時補給。

      • 散布量:1㎡あたり100 g(30aで30 kg)

      • 作業:全面に均一散布後、軽く混和


    • 骨粉

      • 緩効性リン酸を長期供給し、根の発育と花芽分化を支援。

      • 散布量:1㎡あたり50 g(30aで15 kg)

      • 作業:根元周辺に重点施用


    • 木灰

      • 即効性カリウムと微量ミネラルを補給。土壌の塩基飽和度アップ。

      • 散布量:1㎡あたり30 g程度

      • 作業:軽く表面散布か土壌撹拌


    微生物活性の促進

    • EMボカシ

      • 乳酸菌・酵母・光合成細菌などが有機物分解と養分循環を加速。

      • 散布量:1㎡あたり100 g(30aで30 kg)

      • 作業:他資材散布後に全体に散布


    • アルギン酸(海藻エキス)

      • 根毛発達を促すホルモン様作用、微量要素キレート供給。

      • 散布:100倍希釈液を葉面+土壌散布(夕方)


    土中灌注 土壌改良に加えて、効果を高める土中灌注処理

    • 根域に持続的かつ均一に水分・養分を滴下。蒸発ロスを削減。

      • 設置:樹木周辺の根域に埋設


    • 液肥(KH₂PO₄、硝酸カリウム、苦土石灰溶液)

      • N・P・K+Mgを即効的に供給。根域深部まで直接到達。

      • 希釈:500–1,000倍で灌注時に注入


    その他根域活性化灌注


    • フルボ酸活力液: 500倍希釈液を主要樹木の根元周辺に灌注

      • キレート作用により土壌中の養分可溶化を促進

      • 根の吸収力向上と発根促進効果


    • 施用方法: 樹木周辺に20-30cmの灌注穴を開け、1樹木あたり10-20Lを注入


    微生物導入灌注

    • 菌根菌液: 植物と共生関係を築く菌根菌の液体培養物

      • リン酸吸収を劇的に向上させる効果

      • 土壌病害に対する抵抗性向上

    • 施用方法: 樹木の滴下線付近に灌注


    自然発酵液の活用

    • 竹酢液: 1000倍希釈液の定期灌注

      • 土壌の殺菌・殺虫効果と同時に有用微生物の活性化

      • 植物の免疫力向上効果

    • 施用方法: 夕方以降に全体散布と局所灌注の併用


    野鳥誘致による生物的防除

    • 巣箱設置: 庭園内の適所に野鳥向け巣箱を設置

      • シジュウカラやヤマガラなどが害虫を捕食


これらを組み合わせることで、根が伸びやすく、養分を効率的に吸収できる健康な庭園土壌へと変わると推測されます。定期的にデータを取りながら徐々に改善していく取り組みになります。ただ急激な土壌の変化はかえって根茎などにダメージを与える原因にもなるので、少量ずつからのスタートが大事です。


実際に土壌改良時のブログ記事もUPする予定です!


お庭の環境を知ることで、きっと新しい発見があり元気がなかった木が土壌改良により健やかになる可能性はかなり大きいです。


ぜひお庭の土の中や庭園環境にも目を向けてみてください。


尾上別荘の庭園は、地域の歴史と人々の想いが積み重なった文化的意義も深いお庭です。その価値を未来へ繋ぐためには、美観を守ることはもちろん、土壌という見えない基盤を健全に保つことが不可欠です。


今回の土壌分析と改善案は、科学的な根拠に基づいて庭園の健康診断を行い、適切な処方箋を与える取り組みです。ここで大切なのは、科学の力を借りつつも庭園本来の自然の理(ことわり)を尊重する姿勢です。


データが示す課題に対し、人と自然が長年培ってきた知恵を合わせて解決策を練る。


剪定屋空は、今後も庭園環境も考えながら庭と触れ合い今まで培った知見を活かし、この由緒ある庭園の土と景観を良くする施工ができればと考えております。



日本庭園の土壌環境

土壌という足元から考える庭園管理によって、尾上別荘庭園がこれからも四季折々に輝きを増し、訪れる人々に歴史と自然の調和した安らぎを提供し続けることを願っています。


 
 
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