お庭に防火樹を植えてみよう・防災の観点から考える庭木の植栽【無料レポート】
- 三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店 剪定屋空

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初めに
本記事の内容をまとめた 「防火樹の科学と実践レポート(PDF)」を無料で配布しています。含水率データ、歴史的背景、国際研究までを整理した資料ですので、庭木選びや地域防災の検討に、どうぞご自由にお使いください。
防火樹は「完全な壁」ではなく「遅延装置」である

火災から人命や財産を守るために、庭木や緑地を戦略的に活用する「防火樹」の概念が再評価されています。
本記事は、古来の知恵と現代の科学的知見を統合し、樹木の防火機能について詳細に解説します。
重要な前提として、いかなる樹木も極端な火災条件下では完全な防火性を持ちません。防火樹が果たす役割は、「延焼を遅延させる」「輻射熱を軽減する」ことにあり、その効果は適切な維持管理(枯死材除去、含水率維持)と空間配置によって初めて最大限に発揮されます。
歴史が証明する樹木の防火効果
防火樹に関する研究は、日本の歴史的な大災害を教訓として発展してきました。

関東大震災(1923年)の教訓
1923年の関東大震災後に行われた「火災と樹林並に樹木との関係」調査は、日本における防火樹研究の第一歩となりました。
この調査では、樹林の有無が生死を分けた極めて重要な事例が記録されています。
深川岩崎邸(清澄庭園): 約20,000㎡の敷地に豊富な樹林があり、約2万人が生存しました。
本所旧陸軍被服廠跡: 約50,000㎡の裸地(樹木なし)で、約4万人が犠牲となってしまいました。
河田・柳田技師(1924)の調査によれば、同規模の避難地でも樹林帯の有無で生死が分かれる結果となり、電柱は燃えたものの、生きた樹木は火に耐え、新芽を吹いていたことから、樹木の生理的防火機能の存在が示唆されました。

また、震災予防調査会報告(1925)では、火災の焼け止まり総延長の30%以上が樹木を主体とした緑の空地に関連していたと定量的に示されており、樹木の「線としての防火効果」が裏付けられています。
古代・中世の空間防火システム
樹木を用いた防火の知恵は古くから存在します。
養老律令(718年): 日本最古級の防火規定の一つで、倉庫周辺に防火用水を設け、建物から50丈(約150m)の空間を設ける「空地による防火対策」が定められていました。
江戸時代: 火除地(ヒヨケチ)や広小路(ヒロコウジ)、そして樹木栽培場(植溜)が避難所として機能し、空間と樹木の組み合わせが延焼阻止に効果があったことが記録されています。
防火樹の科学的メカニズム
樹木がなぜ火災に強いのかは、主に二つの要素と水分の働きによって説明されます。
防火効果の二大要素

樹木の防火効果は、以下の二つの力の総合で発揮されます。
遮熱力(Shielding Capacity): 樹冠や幹が「衝立」として機能し、火源からの熱・炎・熱気流(特に輻射熱)を物理的に遮る力です。空隙が小さく、年間を通じて遮蔽率が高い常緑性の樹冠構造が効果的です。
耐火力(Fire Resistance): 樹木が火に耐えて遮熱力を発揮し続けるための力です。葉中の水分が熱を気化熱として放出し、葉の温度上昇を100℃以下に抑制するメカニズムによります。
樹葉の含水率と自消作用

樹葉の含水率は、耐火力を決定づける最重要指標の一つです。樹種により45%から85%と大差があり、平均値は63%ですが、夏季は冬季よりも含水率が高く、季節変動があります。
樹種 | 含水率 | 重要な特性 |
アジサイ | 84.9% | 多くの常緑樹を上回る高含水率 |
サンゴジュ | 70.5% | 「日本三大防火樹」の一つで、高い含水率が特徴 |
モッコク | 65.0% | ツバキ科の近縁種、中程度の含水率 |
スダジイ | 54.0% | 常緑広葉樹だが、含水率は中程度 |
サザンカの推定含水率: 直接的な測定データは限定的ですが、同じツバキ科のモッコク(65.0%)などの常緑広葉樹のデータから、サザンカも60~70%程度の含水率を有する可能性が示唆されます。
難燃性の証明:自消作用と発炎温度

樹葉は単なる「湿った可燃物」ではありません。炎から離すと自然に火が消える自消作用を持ちます。これは葉の細胞構造による水分保持や表皮組織によるガスバリア効果などが関与する、難燃性の生体材料である証拠です。
また、サザンカの生葉の発炎温度は、約570℃以上という高い値を示し、これは防火樹として適していると評価されています。
防災力を高める推奨防火樹種リスト

インスタで出した防火樹まとめもかわいかったので貼り付けております。
防火樹種の選定にあたっては、耐火性、防火性、含水率、そして在来種としての地域適合性を考慮する必要があります。
分類 | 樹種 | 耐火性/防火性 | 重要な特性/備考 |
高木 | クロガネモチ | 大 / 極大 | 火に極めて強いと特別評価される樹種 |
高木 | イヌマキ | 大 / 大 | 針葉樹だが防火性が極めて高い例外的な樹種。生垣にも利用可能 |
高木 | シラカシ | 大 / 大 | 関東以西で広く利用される代表的常緑樹 |
高木 | イチョウ | 中 / 大 | ギンコライド含有が抑制効果。落葉期(冬季)は効果が低下する点に留意 |
中木 | サンゴジュ | - / 極大 | 高い含水率(70.5%)を誇る「日本三大防火樹」の一つ |
中木 | サザンカ | 大 / 中~大 | 常緑性で剪定耐性が高い。発炎温度が高いと推定される |
中木 | モッコク | 大 / 大 | ツバキ科で高めの含水率(65.0%) |
低木 | マサキ | 大 / 極大 | 火に極めて強く、生垣に適する |
低木 | アオキ | 大 / 大 | 耐陰性が高く、受熱時の可燃性ガス発生が少ない(低発生型) |
針葉樹に関する例外: 一般にスギやヒノキは樹脂含有量が高く燃えやすい傾向がありますが、イヌマキとコウヤマキは明確な例外として、耐火性・防火性ともに「大」の評価を受けています。
防災力を最大化する植栽と管理の原則
防火樹の機能を有効にするためには、植栽計画と継続的な管理が不可欠です。
空間配置の戦略:防御可能空間(Defensible Space)

建物からの距離に応じて植生を厳密に管理する「防御可能空間(Defensible Space)」の概念が、国際的にも重視されています。
燃料除去ゾーン(1.5m以内): 建物から1.5m以内は、飛び火や直接火炎接触のリスクを最小化するため、短い芝生や多肉植物のみとし、可燃物を完全に除去します。
開放ゾーン(1.5~10m): 低燃焼性植物を選択し、水平・垂直方向の燃料連続性を遮断します。樹冠間隔を2~10m確保することが推奨されます。
樹木ゾーン(10~30m): 樹木による輻射熱吸収と飛び火捕捉の効果を活用します。ただし、地表燃料の管理継続が必要です。
科学的根拠: 家屋周囲の木本植生被覆率が高いほど、家屋焼失リスクが上がることが定量的に示されています。
枯死材管理の徹底

防火性能を維持し、着火リスクを低減するために最も重要なのは、枯死材の管理です。
枯枝、枯葉、剪定残渣といった枯死材は、火災の主要な着火源となります。
落葉清掃: 秋から冬にかけての落葉は定期的に清掃します。
枯枝除去: 年1~2回の点検と、枯枝・病害枝の除去は不可欠です。
剪定残渣: 現地焼却は厳禁とし、チップ化して場外に搬出します。
剪定管理: 樹冠内部の風通しを確保する「通風型剪定」を行い、空隙率を50%程度に調整することで、火の回りを抑えることが推奨されます。 透かし剪定なども風通しを良くすながら害虫を抑制する効果もあり理にかなっている剪定方法と言えます。
サザンカの総合的防火性能評価
サザンカ(Camellia sasanqua)は、在来種として以下の優位性により、一定の防火効果が期待されます。
評価項目 | 評価 | 根拠 |
耐火性 | 大 | 火災後の再生力が強い(林業試験場1971、吉武2003) |
防火性 | 中~大 | 延焼防止効果が認められる |
常緑性 | 高 | 年間を通じて遮熱力を維持できる |
発炎温度 | 高い | 約570℃以上と推定され、着火しにくい |
国際評価 | 推奨 | 国際的なガイドラインでもツバキ属(Camellia)は耐火性を持つ植物として推奨 |
サザンカは、日陰でも生育可能な耐陰性を持ち、生垣として利用することで線的な防火効果が期待できます。また、開花期(10~12月)が火災多発期と重なるため、防火意識の啓発にも貢献します。
まとめ

樹木の防災機能は、火災発生時に水を溜めておくバケツのようなものです。水(含水率)とバケツの配置(空間配置)が適切に組み合わさって初めて機能します。
防火樹の効果を過信せず、適切な管理と配置戦略、そして何よりも枯死材の除去を徹底することが、火災に対して強靭な地域社会を構築するための基本となります。
サザンカを含む在来防火樹種については、今後も詳細な含水率データや耐受熱限界値の実測といった研究の継続が求められます。
お庭に木を植えたいと思う方ぜひ防災の観点から見た樹木選びも参考にしていただけらと思います。 昨今、木は大きくなり管理が大変だからなどの理由で植えたくないという方もいるかもしれません。 しかし、樹木は鑑賞目的に限らず色々な機能があることを知っておくともっと木が好きになるかもしれません。
いろいろな恩恵を私たちに与えてくれる自然や樹木達はこれからもずっと人間に寄り添ってくれる大事なパートナーです。
【防火樹の科学と実践:包括的知見レポート 参考文献リスト(主要文献抜粋)】
日本語文献
No. | 著者/機関 | 年 | タイトル/概要 | 関連する知見 |
1 | 吉武 孝 | 2003 | 樹木の耐火性・防火性. 樹木医学研究 | 林業試験場(1971)の分類を改訂。サザンカやヤブツバキの耐火性評価「大」の根拠,。 |
2 | 岩崎 哲也 | 2019 | 樹木による防火効果について〜これまでの検討成果から〜. 日本緑化工学会誌 | 防火効果の二大要素(遮熱力・耐火力)の概念、自消作用に関する観察結果,,。 |
3 | 岩崎 哲也 | 2005 | 防火的視点からみた各種樹葉の含水率に関する研究. ランドスケープ研究 | 178樹種の含水率測定データ(サンゴジュ70.5%、アジサイ84.9%など)の提供,。 |
4 | 岩河 信文 | 1982 | 都市における樹木の防火機能に関する研究. 東京大学博士論文 | 樹葉の耐受熱限界値(暫定基準:約13.95 kW/㎡)の実験データ,。 |
5 | 林業試験場 | 1971 | 保健保全林-その機能・造成・管理-. 林試研報 | 日本初の系統的な樹種別耐火性・防火性評価の基礎データ,。 |
6 | 河田 杰・柳田 由蔵 | 1924 | 火災と樹林並に樹木との関係. 土木学会誌 | 関東大震災後の深川岩崎邸と本所被服廠跡の比較調査結果。樹木の生理的防火機能の示唆,,。 |
7 | 震災予防調査会 | 1925 | 震災予防調査会報告 第百号(戌) | 関東大震災における火災の焼け止まり総延長の30%以上が樹木に関連していたという定量的な初期データ,。 |
8 | 森本 幸裕・木田 幸男 | 1996 | 震災からの回復経過からみた樹木の防火機能と耐火機能. ランドスケープ研究 | 阪神・淡路大震災後の調査。落葉期のイチョウの機能低下など、季節変動の重要性を指摘,,。 |
9 | 山下 邦博 | 1986 | 針葉樹と広葉樹の発火性の相違について. 火災 | 広葉樹の発炎温度が針葉樹より高いことを示し、サザンカなどが約570℃以上の高い発炎温度を持つことを推定,,。 |
英語文献(国際的な山火事研究と植生管理)
No. | 著者 | 年 | タイトル/概要 | 関連する知見 |
1 | Ondei, S. et al. | 2024 | Garden design can reduce wildfire risk... npj Natural Hazards | オーストラリアのDefensible Space(防御可能空間)概念における3ゾーンシステム(燃料除去ゾーン、開放ゾーン、樹木ゾーン)の詳細,。 |
2 | Gibbons, P. et al. | 2012 | Land management practices associated with house loss in wildfires. PLOS ONE | 家屋周囲の木本植生被覆率と家屋焼失リスクに有意な正の相関があるという定量的な科学的根拠,。 |
3 | Price, O.F. et al. | 2021 | Comprehensive examination of the determinants of damage to houses... Fire | 家屋損傷リスクに対する建物側の仕様と植生管理(特に種類・配置)の重要性を検証,。 |
4 | Penman, S.H. et al. | 2019 | The role of defensible space on the likelihood of house impact from wildfires... International Journal of Wildland Fire | 防御可能空間(Defensible Space)の存在が家屋生存率を有意に向上させるという実証データ,。 |






