約120年ぶりのハチク一斉開花 – 竹が花咲き枯れる謎と竹林への影響
- 三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店 剪定屋空
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2020年代初頭、日本列島のあちこちで竹林が茶色く立ち枯れはじめました。原因は、淡竹(ハチク)が約120年に一度だけ咲かせる花。日本ではモウソウチク(孟宗竹)・マダケ(真竹)と並ぶ「日本三大有用竹」の一つに数えられ、全国各地に広く分布しています。

上の画像はハチクの花のイメージです。 三重県鈴鹿市でハチク林の管理をさせてもらっていますが、そこではまた開花は確認できていません。
普段は地下茎で増える竹が、一世紀以上の沈黙を破って一斉に開花したのです。私たち剪定屋空が年間で管理させていただいているハチク竹林はまだ開花はしていない様子でしたが、今後観察しながらどのように竹林が変化していくかなどもモニタリングしていく予定です。
淡竹(はちく)
学名 | Phyllostachys nigra var. henonis
原産 | 中国(奈良時代に渡来)
樹高 | 10〜15 m(環境が良ければ20 m近く)
径 | 10 cm前後
特徴 | 表皮は淡い緑に白粉を帯び、耐寒性が高い
用途の幅広さ
茶筅や提灯など細工物に最適(材が柔らかく割りやすい)
箒(ほうき)、簾(すだれ)、筆軸などにも使われる
春には繊細なタケノコを供給し、食文化を支えてきた
120年サイクルの開花という謎
竹は花を見る機会が極端に少ない植物です。淡竹の場合、120年に一度だけ広範囲で同期開花する性質があります。花といっても稲の穂のような地味な姿で、枝先から垂れ下がる小穂を見て初めて開花に気づくほど。しかも開花後は急速にエネルギーを使い果たし、竹林全体が茶色く変色して枯れていきます。 テングス病にかかった竹も穂先が花のように変形する場合がありテングス病と間違ってしまう事もあるようです。
広島大学の研究チームが2020年に開花が始まった竹林を追跡調査したところ、太い稈ほど花をつける傾向があり、調査対象334本のうち約83%が2020年と2022年初夏に開花して間もなく枯死したと報告されています。
この大きな時間差での開花の理由ははっきりしていませんが、クローン個体が一斉に世代交代する仕組みだと考えられています。森の中で一世紀ものあいだ静かに増殖したのち、一気に花を咲かせてリセットする自然界きっての長期計画を考える植物と言えるでしょう。
花の後に訪れる竹林の危機
立ち枯れと倒竹 花を咲かせた稈(かん)は数か月〜数年で空洞化し、強風や豪雨で倒れやすくなります。住宅地や道路に隣接する竹林では早期の伐採が欠かせません。
景観の劇変 緑の壁だった斜面が一転して茶褐色の枯れ山に。観光地や里山の印象が大きく変わり、地元の方々からは驚きと不安の声が上がります。
経済・文化への影響 竹材の供給が途絶え、タケノコも当面望めません。篠笛や茶筅、竹かごなど伝統工芸の材料不足が懸念されます。
種子ができない? もう一つの不思議
淡竹は花を咲かせてもほとんど結実しないことで知られています。同じ遺伝子をもつクローンが林全体を占めているため、受粉が成立しにくいのではと考えられます。種子という切り札を使わず、地下茎の再生力だけで生き残る。これも淡竹が進化の過程で身につけた独特の戦略です。
地下茎が握る再生のカギ
地上が枯れても、土中の地下茎が完全に死んだわけではありません。数年あるいは十数年の休眠を経て、細いタケノコがぽつぽつ顔を出す例が各地で報告されています。再生ペースは場所や環境で大きく異なり、忘れたころに竹林がよみがえることも珍しくありません。
春の恵み・淡竹のタケノコ

旬:4〜5月
味:アクが少なく、繊維が柔らかい
料理:若竹煮、炊き込みご飯、天ぷら、みそ汁の具
下処理:収穫後すぐなら米ぬか不要でゆでられる
市場流通量は少なく「幻の筍」と呼ばれることも。開花が広がる今後しばらくは、さらに入手しにくくなるかもしれません。
竹は古来より、自然と人間の健康をつなぐ存在として重宝されてきました。中国最古の薬物書『神農本草経』にもその効能が記されており、特に「君子の用」として尊ばれています。「君子の用」という表現は、中国の古典思想に由来する概念で、特に竹と君子(理想的な人格者)の関係性に触れた言葉です。
古代中国の思想では、竹は「四君子(梅・蘭・竹・菊)」の一つとして尊ばれ、その性質が理想的な人格を象徴するとされていました。竹が持つ特性—中が空であること(謙虚さ)、真っ直ぐに伸びること(誠実さ)、しなやかさと強さを兼ね備えていること(柔軟性と節操)が、君子が目指すべき徳と重ね合わされていたのです。
「君子の用」とは、単なる実用的な使い方を超えて、高潔な人格を持つ人(君子)にふさわしい用途や、その人格を象徴するような使い方を意味します。竹を使った書画や茶道具などは、単なる道具ではなく、使う人の精神性や美意識を表現する媒体とされていました。
このように、「君子の用」は物質的な用途を超えた、精神的・文化的価値を重視する東洋思想の一端を表す言葉だといえるでしょう。
竹の薬用部位とその効能
1. 竹葉(ちくよう)
竹の葉は、清熱解毒や利尿作用があるとされ、発熱や口内炎、尿路感染症の治療に用いられます。また、竹葉を煎じた茶は、夏の暑さを和らげる飲料として親しまれています。
2. 竹茹(ちくじょ)
竹の若い茎の内皮を乾燥させたもので、痰を取り除き、咳を鎮める効果があります。特に、子供の夜泣きや不眠症の治療に用いられることがあります。
3. 竹瀝(ちくれき)
竹の茎を加熱して得られる液体で、痰を溶かし、熱を下げる作用があります。高熱や意識障害、痰の多い咳などの症状に対して使用されます。
4. 竹黄(ちくおう)
竹の節にできる黄色い樹脂で、心を安定させ、痰を取り除く効果があります。神経衰弱や不眠、てんかんなどの治療に用いられます。
5. 竹実(ちくじつ)
竹の種子は、栄養価が高く、食用としても利用されます。ただし、竹の開花周期は非常に長いため、種子の入手は稀です。
6. 竹筍(ちくじゅん)
竹の若芽である筍は、食物繊維が豊富で、消化を助ける効果があります。また、利尿作用や便秘解消にも効果的とされています。
7. 竹芯(ちくしん)
竹の中心部は、清熱解毒や止血作用があり、口内炎や喉の痛み、出血などの治療に用いられます。
8. 竹荪(ちくそん)
竹の根元に生えるキノコで、免疫力を高め、抗酸化作用があります。高血圧や高脂血症の予防にも効果が期待されています。
9. 竹燕の巣(ちくえんのす)
竹の茎に巣を作る燕の巣は、滋養強壮や美容効果があるとされ、特に女性の健康維持に利用されています。
10. 竹鼠(ちくそ)
竹を主食とする竹鼠は、その肉が高たんぱくで低脂肪とされ、滋養強壮や免疫力向上に効果があるとされています。
竹はその全体が薬用として利用される、非常に貴重な植物です。自然の恵みを活かした竹の利用法を知ることで、健康維持や病気予防に役立てることができます。今後も、竹の持つ多様な効能に注目が集まることでしょう。
淡竹をめぐる物語
不吉?吉兆?かつては「竹が花を咲かせると凶事が起こる」と恐れられましたが、同時に竹の実(竹米)は飢饉をしのぐ“命の糧”にもなりました。
古代中国では、竹米は「非梧桐不栖、非竹実不食-梧桐(ごとう)にあらざれば棲まず、竹にあらざれば食わず-という言葉で知られ、鳳凰の食べ物とされ、高貴な象徴とされました。
《本草纲目》や《太平広記》でもその価値が記されており、粳米や糯米よりも貴重とされています。しかし、竹の開花は鼠害や飢饉と関連付けられ、中国やインドでは「竹花開、大災必至」という民間伝承が存在します。
「破竹の勢い」一度割れ目が入ると勢いよく裂ける竹の性質から生まれた言葉。地下茎から再起する淡竹にも通じる力強いイメージです。
淡竹の開花と枯死は、森が長い時間をかけて奏でる壮大なドラマの一幕です。目の前の竹が倒れ、景観が変わるのは寂しいものの、その地下では次の幕開けが静かに準備されています。
私たち剪定屋空は、この再生のリズムに寄り添いながら、倒竹の安全対策や資源のアップサイクルに取り組んでいけたらと思います。
120年後、また誰かがこの現象に立ち会い、竹の命のバトンを感じることでしょう。その日まで、私たちは竹と人をつなぐ仕事を続けていきます。