お庭の健康診断|土壌から分かる庭の健康状態― 尾上別荘庭園における土壌改善の記録とこれから ―
- 三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店 剪定屋空

- 1 日前
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現場で作業をしていると、ふと足元に違和感を覚えることがあります。

踏んでも沈まない。スコップが入らない。根元を掘ろうとしても、まるでコンクリートのように固い。そういう土に出会うとき、その場所の樹木は決まってどこか元気がありません。
葉は薄く、枝先は枯れ込み、幹の太さに対して勢いが感じられない。原因の多くは、地上ではなく土の中にあります。
前回の土壌分析|固くて届かない土
2025年4月に実施した土壌分析では、庭の状態が数値として明確に現れました。

固相は53.1%。理想とされる40〜45%を大きく上回り、土の粒子が詰まりすぎている状態です。液相(水分)は12.2%。適正値の半分以下で、水が十分に保持・循環できていません。
土は固相(土の粒子)・液相(水分)・気相(空気)の三つで成り立っています。今回の分析値を当てはめると、固相53.1%・液相12.2%・気相34.7%となります。
理想的なバランスは固相40〜45%・液相25〜35%・気相25〜35%とされており、この庭では固相が過剰で液相が極端に不足していました。
気相の数値だけ見ると問題がないように思えますが、これは水が入れないために乾いた空隙が残っているだけです。水を保持できない土は、養分も根も通さない土です。

仮比重は1.61。農地では1.4を超えると根への影響が出るとされており、それを大きく上回っています。さらに、リン酸・カリウム・石灰・苦土といった主要養分も不足していました。ただし、腐植は3.8%と適正範囲内でした。
これは養分がない土ではなく、養分が届かない土だったということです。いくら肥料を与えても樹勢が回復しない場合には、土の硬さに問題がある場合も考慮して管理していくことが望ましいです。
土壌圧密という見えない問題
土が固くしまって植物が呼吸できない。この状態は土壌圧密と呼ばれます。
人の踏圧、車両の通行、工事の影響などによって、土の中のすき間(孔隙)が潰れてしまう現象です。土の中には本来、空気の通り道・水の通り道・根が伸びるための空間が存在しています。しかし圧密が進むと、それらは失われていきます。
その結果、根は伸びられず、水も浸透せず、空気も循環しない。土でありながら、土として機能していない状態になります。
山中式土壌硬度計で可視化する

山中式土壌硬度計。コーンを土に押し込み、貫入深さ(mm)で締まり具合を数値化する。
今回の取り組みでは、この見えない固さを数値で捉えます。使用するのは山中式土壌硬度計です。

この計測器は、コーンを土に押し込み、その貫入深さ(mm)によって土の締まり具合を示します。一般的な目安として、21mmを超えると根の伸長が妨げられ、25mm以上ではほとんど根が侵入できなくなります。
固い土が引き起こす酸素不足
土が固くなることで最も深刻なのは、単に根が入れないだけではなく酸素が届かなくなることです。土壌中の酸素は、空気中とはまったく異なる動きをします。水で満たされた土では、酸素の拡散速度は空気中の約1万分の1になります。
圧密によって粗い孔隙が失われると、土の中は水で満たされやすくなり、酸素はほとんど移動できなくなります。根は呼吸しています。酸素が届かない環境では、根は機能を失い、やがて衰退します。
土を掘ったときに感じる嫌気的な臭いは、まさにその状態のサインです。また除草剤を多く使用した土も、感覚では土が異様に固くなったり水捌けが悪くなる印象があります。

菰野町の山で実験を行いました。落ち葉に覆われた地面は10mm。いつも歩いている踏み跡は19mmでした。踏まれている土と踏まれていない土。それだけの違いで、約2倍の硬さになります。
庭で起きていることと本質は同じです。人が歩く場所、車が入る場所、工事の後。そこには必ず、見えない圧密の痕跡が残ります。
根は土の状態を感じている
近年の研究では、植物の根が土の状態を感知していることも分かってきました。根はエチレンというガスを放出しています。健全な土では、このガスは土中の孔隙ネットワークを通って外へ逃げていきます。しかし圧密された土では逃げ場がなくなります。
結果として、根の周囲にエチレンが滞留しこれ以上進めな」というシグナルが根に送られるのです。エチレンは植物ホルモンの一種で、高濃度では根の細胞分裂そのものを抑制します。根は、物理的に壁にぶつかる前に、ガスによって進行を止めてしまうのです。
土の固さとは単なる物理的な問題ではなく、根の行動そのものを制御してしまう環境要因でもあります。
土中灌注|土に呼吸を取り戻す
今回の施工では、土中灌注を行いました。ポアーノズルを地中に差し込み、水と資材を高圧で注入します。

使用した資材は、フルボ酸活力液・メネデール・場所によっては竹炭粉炭を加えたものです。重要なのはこれらの中身ではありません。
本質は、水圧によって土にすき間を作ることです。圧密された土に微細な空間を再び生み出し、固相・液相・気相のバランスを整える。つまり、土に呼吸を取り戻す作業です。
硬度検査で開けた縦穴にも灌注穴から水が浸透してるのがわかります。
2026年4月7日の施工|採土・灌注・計測
2026年4月7日、尾上別荘にて土中灌注を実施しました。縦穴を掘り、表層・中間層・深層の3層で施工前後の硬度を計測しています。
はじめに各所で土を採取しました。

5地点から500gずつ採取。土壌分析(化学性・物理性)と全炭素分析の両方に対応。

モミジの実生3本の細根と周辺土壌を採取。AM菌共生率・胞子数の分析に送付予定。

モミジの実生3本の細根と周辺土壌を菌根菌分析(AM菌共生率・胞子数)のために採取し、全炭素の分析用に5地点、土壌分析用(化学性・物理性)にも5地点、それぞれ採取しました。

土中灌注は合計600リットル。エントランスのさつき箇所はフルボ酸とメネデールを使用し、他の箇所にはこれに木炭粉炭を加えて施工しました。
施工前後の計測結果
硬度計測は2地点で記録しました。

灯籠前の松周辺では、灌注前の硬度は表層・中層・深層すべてで18mmでした。全層が均一に固くしまっている状態です。灌注後、表層は18mmのまま変化がありませんでしたが、中層と深層は3mmまで下がりました。数値だけでなく、スコップを入れたときの感触も変わっていました。

枯池の中では、灌注前は表層17mm・中層11mm・深層3mmでした。灌注後は表層11mm・中層2mm。深層は水が溜まり計測できませんでした。枯池の内側は水捌けが悪く、灌注後も水が残りました。水が抜けないということは、排水性の改善が次の課題です。

2地点・3層の施工前後比較。灯籠前は中層・深層ともに83%改善。枯池は中層82%改善。
数値で変化が見えるのは、土中灌注が届いた証拠です。ただし表層が変わらないということは、踏圧による影響はまだそこにあるということでもあります。今後の計測と合わせ、時間軸の中でどう変化するかを追い続けます。

石畳横のよく人が通る場所の表層硬度は28mmとかなり硬い数値でした。
合わせて検土杖で土の性質把握
検土杖を地面に差し込み、地中の土を層ごとに抜き取ることで、表面からは分からない土の構造や質感を直接確認することができます。

採取した土を観察すると、まず感じるのは粒の粗さと軽さです。手で崩すとサラサラとほどけ、粘土のような粘りはほとんど見られません。
このことから、この土は土壌学的に砂壌土(さじょうど)砂分が多く水はけの良い土に分類されます。粒径が粗く、空隙が多いため、水や空気の通りが良い一方で、水分や養分を保持する力はやや弱い性質を持っています。

さらに観察すると、小石(礫)が多く含まれていることが分かります。これは自然に形成された土というよりも、造成や庭園施工の際に人の手によって整えられた土壌である可能性を示しています。砂利層と連続していることからも、排水性を意識した設計がされていると考えられます。
土の色は明るい茶色で、黒みが少ない状態でした。これは腐植(分解された有機物)が少ないことを意味します。有機物が少ない土は、微生物の活動も控えめで、土の団粒構造(粒がまとまる構造)が未発達になりやすい傾向があります。そのため、土は崩れやすく、保水性や保肥性も限定的になります。
一方で、このような土は排水性と通気性に優れているため、根腐れのリスクは低く、細根の発達には適しています。特に松や雑木類にとっては相性の良い環境です。ただし、乾燥しやすく、肥料分も流亡しやすいため、夏場の水分管理や養分補給には注意が必要です。
土は目に見えにくい存在ですが、その状態は確実に庭の表情に現れます。静かに地面に触れてみることで、その庭が歩んできた時間と、これからの可能性が見えてくるように感じます。
穴を開けるだけでは足りない
研究から明らかになっていることがあります。空気や水で土に穴を開けるだけでは、その効果は長続きしません。周囲の土が再び締まり、数年で元の状態に戻ることもあります。
改善を持続させるためには、有機物の補給、微生物の活性化、表層の保護(マルチング)といった、複合的なアプローチが必要です。
マルチングの効果は、踏圧からの保護という点でも重要です。落ち葉や木材チップを表層に施すことで、土壌硬度の上昇を抑え、雨水の浸透を助け、微生物の活動環境を維持します。

今回の菰野の山で測定した落ち葉のある地面(10mm)と踏み跡(19mm)の差は、まさにこの効果が自然の形で現れたものです。人が踏まない場所では、落ち葉が土を守り続けていました。
今回の土中灌注は、その一部にすぎません。施工後の管理も含めて、初めて意味を持ちます。
菌根菌という見えないネットワーク
土の中には、目に見えない共生関係があります。それが菌根菌です。樹木の根と共生し、水分や養分の吸収を大きく助ける存在です。
外生菌根菌、AM菌など共生する菌根は樹木によって様々です。土が固いと、菌糸は広がれません。つまり、菌根菌のネットワークも成立しません。
今回の土中灌注では以前した土壌分析とあわせ、菌根共生率や胞子数も測定し、土壌の生物的な健全性も確認していきます。
土壌炭素というもう一つの視点
今回、新たに注目しているのが土壌炭素です。尾上別荘庭園は125年の歴史を持ちます。落ち葉や根の分解によって蓄積された有機物が、どれだけ炭素として土に残っているのか。
前回の腐植量から推定すると、約2.2%の炭素が含まれていると考えられます。これはVan Bemmelen係数(腐植% ÷ 1.724)による換算値です。
腐植が有機物の存在を示す指標である一方、炭素量はその中でどれだけが長期的に土に固定されているかを示します。さらに、バイオチャコールの施用により、長期的な炭素固定も進んでいる可能性があります。
測るということ
私たちの庭園管理の取り組みで大切にしているのは、測ること、記録することです。柔らかくなった気がする。良くなったように見える。そうした感覚も大切ですが、同じ条件で測定した数値は、より確かな指標になります。
例えば、30mmだった硬度が20mmを下回れば、それは明確に根が伸びられる環境になったことを意味します。数字は、土の変化を静かに伝えてくれます。今回は菌根菌の分析に合わせて炭素の分析も行うので、結果が楽しみです。
見えない変化を積み重ねる
土は、表面からは見えません。しかし、すべての基盤はそこにあります。


ちょうど良い時期にお手入れに入らせていただきオオシマザクラが満開でした。
今回の計測と施工は、その見えない部分に触れる試みです。一度の施工で劇的に変わるものではありません。樹木の反応が現れるまでには、年単位の時間も必要です。
測り、記録し、整え続けることで、庭は少しずつ、確実に変わっていきます。その変化を、これからも追い続けていきます。
尾上別荘の庭園は、明治33年の創設から今年で126年を迎えます。
それだけの時間をかけて育まれてきた木々が今も立ち、花を咲かせています。この庭を次の世代に引き継いでいくということは、目に見える枝葉を整えるだけでは足りません。
人間でいえば心の内側、つまり土壌という見えない基盤に目を向け、数値として記録し続けることが、本当の意味での庭園管理だと考えています。
データを残すということは、単なる記録ではありません。私たちがこの庭を管理できな
くなった後も誰かがそのデータを手にして、庭の状態を読み解き次の手を考えられる。そういう可能性を、未来に向けて開いておくことでもあります。
これは尾上別荘だけの話ではないと思っています。
歴史ある庭であればあるほど、土の中に積み重なってきたものを、数値として可視化できる。それを記録として残しておくことが、次世代の庭園管理へとつながっていくのだと感じています 。

数本のひこばえだけ何故かアルビノのオオシマザクラにも花が咲いてました。また次回このひこばえアルビノについては考察してみます。







