庭園が教えてくれた土の再生—化学分析×物理計測×菌根菌で見える土壌改良
- 三重県剪定伐採お庭のお手入れ専門店 剪定屋空

- 2 日前
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古い庭園で樹木が元気を失う時、原因はいつも地上にあると思っていませんか。剪定が足りない。肥料が不足している。害虫がついている。確かにそういう場合もあります。でも、現場で何度も出会うのは、そのどれでもない。
足元。土です。
三重県四日市市にある尾上別荘庭園。明治33年の創設から今年で126年。この庭は丁寧に育まれてきた場所です。でも数年前から、樹木たちが静かに弱まり始めていました。葉は薄く、枝先は枯れ込み、幹の太さの割に勢いがない。オオシマザクラからはアルビノのひこばえが出始めました。水はけも悪くなっていた。
原因を探るために、2社の分析機関に依頼して、土そのものを徹底的に見つめることにしました。その結果が示したのは養分がない」ではなく養分が届かない土という問題でした。
現場からの問い「土が呼吸していない」
現場で作業をしていると、時にふと違和感を覚えることがあります。踏んでも沈まない土。スコップが入らない地面。根元を掘ろうとしても、コンクリートのように固い。
そういう場所の樹木は、決まってどこか元気がない。これは肥料や薬ではなく、土の構造そのものの問題だ」と考えました。
でも直感だけでは、施主様に説明できない。正直に今の庭の状態を伝える。
まずは分析を通して測ることでした。数値で、土の状態を可視化する。それが土との対話の始まりだと思いました。

土の構造バランスが崩壊していた
2025年4月、採取した土壌の分析結果が返ってきました。数値は状況の深刻さを明確に示していました。
三相構成の異常
土は、3つの要素で成り立っています。
固相(土の粒子):53.1% ← 理想値は40〜45% -
液相(水分):12.2% ← 理想値は25〜35% -
気相(空気):34.7% ← 理想値は25〜35%
気相が問題ないように見える。けれど、これは根が吸収できない乾いた空隙が残っているだけです。水を保持できない土は、養分も根も通さない。
仮比重という警告
仮比重1.61。農地では1.4を超えると根への影響が出るとされています。この庭の土は基準をはるかに超えていた。物理的にはほぼコンクリート同然という状態です。
養分の枯渇と一つの手がかり
リン酸、カリウム、石灰、苦土—主要養分はすべて基準値の1/3〜1/7に低下していました。
ただ、ここに重要な手がかりがありました。腐植(有機物が分解されたもの)は3.8%で、適正範囲内だったのです。つまり「有機物は存在している。でも、樹木が吸収できない状態になっている」。絶望的かつ希望的な状況でした。

土壌圧密という見えない連鎖
土が固いというのは、単なる物理的な問題ではない。
根進めないと判断する仕組み
植物の根は、土の状態を感知しています。根はエチレンというガスを放出します。健全な土では、このガスは孔隙ネットワークを通って外へ逃げていきます。圧密された土では、その逃げ道がない。
結果として、根の周囲にエチレンが滞留します。これが根に送る信号はここからは進めない。
エチレンは植物ホルモンの一種で、高濃度では根の細胞分裂そのものを抑制します。つまり根は、物理的に壁にぶつかる前に、ガスの滞留によって自ら成長を止めてしまう。
土の固さとは、単なる物理的な問題ではなく、根の行動そのものを制御する環境要因だったのです。
現場で確認した数値
菰野の裏山で山中式硬度計を使って計測しました。落ち葉が積もったままの地面と、いつも歩いている踏み跡。数メートルしか離れていない2カ所です。
- 落ち葉層:10mm - 踏み跡:19mm
約2倍の硬さです。踏まれている土と、踏まれていない土。それだけの違いで、このような差が生まれる。これは庭の話でもあります。人が歩く場所、車が入る場所、工事の後。そこには必ず、見えない圧密の痕跡が残ります。

眠っている菌根菌—希望と課題
化学分析の後、さらに別の角度から土を見つめました。菌根菌の診断です。
菌根共生率という現実
土の中には、目に見えない共生関係があります。菌根菌です。樹木の根と共生し、水分や養分の吸収を大きく助ける存在です。
尾上別荘の分析結果:菌根共生率 0.3〜1.9%(健全な庭園は40%以上)
基準値の1/20以下です。根がほぼ菌根菌の助けなしに、必死で養分を吸おうとしている状態。でも効率が悪く、供給が追いつかない。だから樹木は衰弱していたのです。
ただし、胞子は生きていた ここが救い
菌根菌胞子数:62〜68個/10g(基準500個に対して1/10以下)
深刻な数値です。
ですが、分析機関のの評価は胞子が確実に生きている。土壌改良と適切な管理により、菌根菌は復活できます。
この一言に、希望がありました。眠っている胞子たちが、土が改善されれば目覚める。その可能性が、数値の中に込められていたのです。

土中灌注—本質は何か
診断と同時に、施工を開始しました。
土中灌注と聞くと、栄養を根に直接届ける方法と思いがちですが。本質は土に呼吸を取り戻すことです。
ポアーノズルを地中に差し込み、水と資材を高圧で注入する。その水圧で、土粒子のすき間に微細な空間を生み出す。固相・液相・気相のバランスを物理的に改善する。圧密で失われた孔隙ネットワークを、人工的に再生させる作業です。
使用する資材は:フルボ酸活力液(500倍稀釈)、メネデール、竹酢液(1000倍稀釈)。これらが「効く」のではなく、水圧による物理的改善が本質です。資材はあくまで補助的な役割です。
層別計測の結果
計測は3層に分けました。
灯籠前の松周辺:灌注前(全層18mm)→ 灌注後(中層3mm、深層3mm)= 15mm低下の改善
枯池の中:灌注前(表層17mm、中層11mm、深層3mm)→ 灌注後(表層11mm、中層2mm)= 6〜9mmの改善
土壌炭素という視点
126年の庭園が土に蓄えているもの。それを計る新しい方法があります。
有機物が固定した炭素量
落ち葉や根の分解によって蓄積された有機物。どれだけ炭素として土に残っているのか。前回の分析では腐植が3.8%でした。腐植中の炭素率から換算すると、約2.2%の土壌炭素量が含まれていると推定できます。
2025年に施用したバイオチャコール(バイオ炭)があります。バイオ炭は100年後も65〜89%の炭素が分解されずに残る素材です。
つまり、今この庭に埋めた炭素は、100年後、200年後も樹木たちを支え続ける。庭を管理することは、炭素を土に蓄えることでもあります。庭園管理がカーボンニュートラルに貢献できるという可能性を、数値として示していきたいと思っています。

土壌の改善戦略
復活には段階があります。
第1フェーズ(5〜6月:基礎整備) 腐葉土7.5トン、バイオ炭450kg、苦土石灰375kg。土の物理性と化学性の基礎を整える。
第2フェーズ(梅雨明け後:深層改善) 土中灌注600Lの複合液。表層の整備が進んだ後、深層へ直接働きかける唯一の方法。
第3フェーズ(秋:保護と活性化) マルチング(腐葉土・木材チップ)、リビングマルチ。踏圧からの保護。微生物の活動環境を維持する。
第4フェーズ(2027年4月:効果検証) 定点採取による再分析、C/N比と菌根共生率の再計測。10年単位の変化を追う。次世代へ引き継ぐデータ。
計測して記録するということ
柔らかくなった気がする。良くなったように見える。感覚も大切です。でも感覚は時間とともに変わります。同じ条件で計測した数値は、より確かな指標になります。
30mmだった硬度が20mmを下回れば、それは明確に根が伸びられる環境になったことを意味します。数字は、土の変化を静かに伝えてくれます。
今、記録しているデータは、次世代の庭園管理者へ引き継がれます。
この庭はこの状態から始まり、こう変わった。
その履歴は、未来の判断を助けます。
土は、表面からは見えません。でも、すべての基盤はそこにあります。
尾上別荘庭園の樹木たちは、明治からずっと、この土の上に立ち続けてきました。その樹木たちが今、弱まり始めている。その理由を知ること。そしてその下にある土に向き合うこと。それが我々の仕事だと思っています。
一度の施工で劇的に変わるものではありません。樹木の反応が現れるまでには、年単位の時間も必要です。ですが、測り、記録し、整え続けることで、庭は少しずつ、確実に変わっていきます。

長い歴史を持つこの庭を、次の100年へ引き継いでいく。その根拠となるのが、今ここで取った一つの数値です。
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