リジェネラティブガーデンとは

リジェネラティブガーデンとは、従来のガーデニングのようにただ植物を育てるだけでなく、土壌や生態系を改善し、環境を再生していくことを目的とした庭のことです。 環境負荷を最小限に抑え、持続可能な方法で植物を栽培することで、土壌の健康を改善し、生物多様性を高め、さらには気候変動の抑制にも貢献することができます。
リジェネラティブガーデンは、自然の生態系プロセスを模倣、または連携しながら、すべての生物にとってより良い状態を目指す「リジェネラティブ・デザイン」の考え方を庭づくりに応用したものです。
環境負荷を最小限に抑えて、現在の自然環境を維持していくだけでなく、積極的に「再生させていく(今よりも良い状態にしていく)」考え方です。
従来のガーデニングとリジェネラティブガーデニングの大きな違いは、土壌への考え方です。従来のガーデニングでは、土壌は植物を育てるための単なる土台と捉えられがちですが、リジェネラティブガーデニングでは、土壌は多様な生物が生息する生態系の一部として捉えられます。
土壌の健康を改善することで、植物の生育が促進されるだけでなく、土壌中の炭素貯留量を増やし、気候変動の抑制にも貢献することができます。
リジェネラティブ農業の考え方を庭づくりに応用するリジェネラティブガーデンでは、以下のような方法が具体例として挙げられます。
不耕起栽培:土壌を耕さないことで、土壌中の微生物の生態系を維持し、土壌の健康を保ちます。
オーガニック(有機)農法:化学肥料や農薬を使用せず、堆肥などの有機肥料を使用することで、土壌の健康を改善し、環境負荷を低減します。
被覆作物の栽培:土壌を裸地にする期間を減らし、土壌の侵食や乾燥を防ぎます。
農場に動物を住まわせる:動物の糞尿を肥料として利用することで、土壌の肥沃度を高めます。
輪作・間作:異なる種類の作物を輪作または間作することで、土壌中の栄養バランスを保ち、病害虫の発生を抑制します。
リジェネラティブガーデニングの目的
リジェネラティブガーデニングの目的は、以下の点が挙げられます。
土壌の健康の回復: 化学肥料や農薬の使用を避け、有機物循環システムを活用することで、土壌の微生物の活性化を促し、土壌の健康を回復させます。
生物多様性の保全: 多様な植物を植栽することで、昆虫や鳥などの生物多様性を保全し、生態系のバランスを維持します。
水資源の保全: 水資源を効率的に利用し、土壌の保水力を高めることで、水資源の保全に貢献します。
気候変動の抑制: 土壌中の炭素貯留量を増やすことで、大気中の二酸化炭素濃度を削減し、気候変動の抑制に貢献します。
コミュニティへの貢献: 地域住民に新鮮な野菜や果物を提供することで、食料自給率の向上に貢献します。また、地域住民が交流できる場を提供することで、コミュニティの活性化にも貢献します。
指標: リジェネラティブ農業における指標は、「土壌の健康」、「動物福祉」、「社会公平性」の3つです。 これらの指標は、リジェネラティブガーデニングにおいても重要な視点となります。
リジェネラティブガーデニングの原則

リジェネラティブガーデニングを実践する上での原則は、以下の点が挙げられます。
土壌を耕さない: 土壌を耕すことで、土壌中の微生物の生態系が破壊され、土壌の健康が損なわれる可能性があります。
土壌を覆う: マルチングや被覆作物を利用することで、土壌の乾燥や侵食を防ぎ、土壌の温度を安定させます。 具体的には、落ち葉や藁、刈り草などを土壌の表面に敷き詰めることで、土壌の乾燥を防ぎ、雑草の抑制にも効果があります。 また、被覆作物を栽培することで、土壌の被覆率を高め、土壌の侵食や乾燥を防ぐとともに、土壌中の有機物を増やすことができます。
多様性を高める: 多様な植物を植栽することで、生物多様性を高め、生態系のバランスを維持します。さまざまな種類の植物を植えることで、特定の病害虫の発生を抑えたり、土壌中の栄養バランスを保つことができます。 また、多様な植物は、さまざまな昆虫や鳥などの生き物を呼び寄せ、生態系を豊かにします。
土壌に生きた根を保つ: 植物の根は、土壌中の微生物のエサとなり、土壌の健康を維持するために重要です。 可能な限り植物の根を土壌に残すことで、土壌中の微生物の活動を活発化させ、土壌の健康を維持することができます。
動物を組み込む: 動物の糞尿は、土壌の栄養分となります。また、動物が土壌を耕すことで、土壌の通気性を良くする効果もあります。 庭にニワトリなどの家禽を放し飼いにしたり、ミミズなどの土壌生物を飼育することで、土壌の健康を改善することができます。
害虫駆除: リジェネラティブガーデニングでは、農薬を使わずに害虫を駆除する方法が推奨されます。 例えば、コンパニオンプランツと呼ばれる、害虫を寄せ付けない効果のある植物を一緒に植える方法や、益虫と呼ばれる害虫を食べてくれる昆虫を呼び寄せる方法などがあります。
さらに、ゲイブ・ブラウン氏が提唱する「土壌の健康のための5原則」も、リジェネラティブガーデニングを実践する上で重要な指針となります。
土壌をかき乱さない:耕起などによる土壌のかき乱しを最小限にすることで、土壌中の微生物の生態系を守ります。
土壌を覆う:土壌を裸地にする期間を減らすことで、土壌の乾燥や侵食を防ぎ、土壌の温度を安定させます。
多様性を高める:多様な植物を栽培することで、土壌中の微生物の多様性を高め、土壌の健康を改善します。
土壌の中に生きた根を保つ:植物の根を土壌に残すことで、土壌中の微生物のエサとなり、土壌の健康を維持します。
動物を組み込む:動物の糞尿や土壌を耕す効果を利用することで、土壌の肥沃度を高め、土壌の健康を改善します。
世界各地のリジェネラティブガーデンの事例
北米
アメリカ: アトランタ市では、食の砂漠と呼ばれる地域に、住民が無料で収穫できるフードフォレストを造成するプロジェクトが進められています。 このフードフォレストは、2.8ヘクタールの敷地に、無農薬の薬用、食用の植物が2500種類も植えられています。 食料供給だけでなく、住民の健康増進や食育にも貢献しています。
カナダ: ウィニペグのアッシナボイン・パークには、世界のさまざまな気候と自然を体感できる園芸アトラクション施設「The Leaf」があります。 この施設は、植物と人間の関係に焦点を当てたインタラクティブな環境を提供し、持続可能な園芸の普及に貢献しています。 The Leafは、自然界にも多くみられるフィボナッチ数列と自然自体から形成された特徴的な屋根や有機的なフォルムにより、植物のシンプルさと複雑さを同時に表現しています。
南米
ブラジル: ADMは、ブラジルでリジェネラティブ農業への転換を支援する実証プログラムを開始しました。 このプログラムは、土壌の健康、生物多様性の保全、土壌の肥沃度と回復力の向上、農場の生産性向上を目的としています。 プログラムの初期段階では、肥料の利用効率と生物学的投入物の利用拡大、不耕起栽培、覆土/被覆作物といった実践に焦点を当てています。
ヨーロッパ
イギリス: ロンドンでは、テムズ川に浮かぶ廃棄物をガラスにアップサイクルする「Thames Glass」というプロジェクトが注目されています。 このプロジェクトは、廃棄物の削減とリサイクルを促進し、循環型社会の実現に貢献しています。
フランス: ハイネケンは、フランスで展開している大規模リジェネラティブ農業移行プログラムを通じ、初めて大麦を収穫しました。 このプログラムは、欧州初の民間企業主導による大規模リジェネラティブ農業移行プログラムです。
ドイツ: ベルリンには、地域住民が協力して野菜や植物を育てるコミュニティガーデンが多数存在します。 コミュニティガーデンは、都会に住みながら自然と触れ合い、新鮮な野菜や果物を育てて楽しむことができます。
アジア
日本: 八ヶ岳の「萌木の村」では、農薬や肥料を使わないナチュラルガーデンが注目されています。 この庭は、八ヶ岳周辺の固有種を多様性に植栽することで、生物多様性の保全に貢献しています。
インドネシア: バリ島には、循環型でエシカルな取り組みが評価されている次世代のエシカルホテル「Mana Earthly Paradise」があります。 このホテルは、古材やエシカルに調達された材料を使用し、太陽光発電や雨水利用など、環境に配慮した設計がされています。 宿泊棟は土のうを積み上げて建てるアースバック工法というエコ建築を採用し、レストランで使われる食材は、新鮮な地元の有機食材だけでなく、多くがManaの施設内のパーマカルチャーガーデンで収穫されたものです。
アフリカ
アフリカでは、ササカワ・アフリカ財団(SAA)が、小規模農家を対象に、環境再生型農業の普及を支援しています。 SAAは、アフリカの気候風土に適した環境再生型農業を普及させることで、食料安全保障の向上に貢献しています。
オセアニア
オセアニア地域では、サントリーが水源涵養を目的としたリジェネラティブ農業に取り組んでいます。 水源涵養とは、森林や土壌の保水力を高めることで、水資源を安定的に確保する取り組みです。サントリーは、海外の水リスクの高い地域での活動をパイロット版として開始し、地域の水資源の保全に貢献しています。
リジェネラティブガーデンに関する知見
パーーマカルチャー
パーマカルチャーとは、永続可能な農業システムを設計するためのデザイン手法です。 リジェネラティブガーデニングは、パーマカルチャーの原則を応用したものであり、自然の生態系を模倣することで、持続可能な庭づくりを目指します。 パーマカルチャーでは、「地球への配慮」、「人々への配慮」、「余剰物の分配」という3つの倫理と、12の原則に基づいて、自然と調和した持続可能な暮らしをデザインします。
生態学
生態学は、生物と環境との相互作用を研究する学問です。 リジェネラティブガーデニングは、生態学の知見を活かし、土壌中の微生物や昆虫などの生物多様性を保全することで、生態系のバランスを維持します。 生態学は、生物の多様性や生態系の機能、生物間の相互作用などを理解する上で重要な役割を果たします。
造園学
造園学は、庭園や公園などの屋外空間を設計・施工・管理する学問です。 リジェネラティブガーデニングは、造園学の知見を活かし、美しい景観を保ちながら、環境にも配慮した庭づくりを目指します。 造園学は、植物の知識、土壌の知識、デザインの知識などを総合的に活用し、快適で美しい屋外空間を創造します。
農学
農学は、農業に関する学問です。 リジェネラティブガーデニングは、農学の知見を活かし、土壌の健康や植物の生育に関する知識を応用することで、効率的な庭づくりを目指します。 農学は、作物の栽培方法、土壌の管理方法、病害虫の防除方法など、農業に関する幅広い知識を提供します。
環境科学
環境科学は、環境問題を解決するための学問です。 リジェネラティブガーデニングは、環境科学の知見を活かし、環境負荷を低減し、持続可能な社会の実現に貢献します。 環境科学は、大気汚染、水質汚染、土壌汚染、地球温暖化など、さまざまな環境問題の原因や対策を研究します。
リジェネラティブガーデンを設計・施工・管理する際のポイント
リジェネラティブガーデンを設計・施工・管理する際には、以下のポイントに注意することが重要です。
地域の気候風土に合わせた植物を選ぶ: その地域の気候風土に適した植物を選ぶことで、植物の生育が促進され、水やりの手間も軽減されます。
土壌の健康状態を把握する: 土壌の健康状態を把握し、必要に応じて土壌改良を行うことで、植物の生育に適した土壌環境を作ることができます。土壌の健康状態は、土壌のpH、有機物含有量、微生物の量などを調べることで把握することができます。
有機物循環システムを構築する: 堆肥やコンポストなどを活用することで、土壌に有機物を供給し、土壌の健康を維持することができます。 家庭から出る生ゴミや落ち葉などを堆肥化することで、土壌に栄養を供給することができます。
水資源を効率的に利用する: 雨水タンクや点滴灌漑などを活用することで、水資源を効率的に利用することができます。 雨水タンクに雨水を貯めておくことで、水道水の使用量を減らすことができます。また、点滴灌漑は、植物の根元に必要な量の水を供給するシステムで、水資源の節約に効果的です。
生物多様性に配慮する: 多様な植物を植栽することで、昆虫や鳥などの生物多様性を保全することができます。 また、鳥の巣箱を設置したり、バタフライガーデンを作ったりすることで、生物多様性を高めることができます。
定期的な観察とメンテナンス: 定期的に庭を観察し、植物の生育状況や土壌の健康状態をチェックすることで、問題を早期に発見し、適切な対策を講じることができます。 植物の葉の色や状態、土壌の湿度などを観察することで、植物の健康状態を把握することができます。
指標: リジェネラティブ農業の指標である「土壌の健康」、「動物福祉」、「社会公平性」は、リジェネラティブガーデニングにおいても重要な視点となります。 土壌の健康は、植物の生育に不可欠な要素です。動物福祉は、庭に動物を組み込む際に考慮すべき点です。社会公平性は、地域住民への貢献や、リジェネラティブガーデニングの普及活動などを通じて実現することができます。
リジェネラティブガーデンが社会にもたらす効果
リジェネラティブガーデンは、以下のような効果を社会にもたらします。
環境保全: 土壌の健康改善、生物多様性の保全、水資源の保全、気候変動の抑制など、環境保全に貢献します。
食料生産: 新鮮な野菜や果物を生産することで、食料自給率の向上に貢献します。
健康増進: 庭いじりをすることで、運動不足の解消やストレス軽減などの健康増進効果が期待できます。
地域活性化: 地域住民が交流できる場を提供することで、コミュニティの活性化に貢献します。
教育: 子どもたちに自然と触れ合う機会を提供することで、環境問題への意識を高めることができます。
リジェネラティブ・バイイング: 企業がリジェネラティブな考え方をビジネスに組み込むことで、環境や社会にポジティブな影響を与えることができます。 例えば、化粧品ブランドのLUSHは、「リジェネラティブ・バイイング」という再生型の調達活動を通じて、顧客が同社の製品を購入すればするほど環境やコミュニティが再生されていく仕組みづくりを進めています。
今後の展望
リジェネラティブガーデンは、持続可能な社会の実現に向けて、今後ますます重要な役割を担っていくと考えられます。地球温暖化や生物多様性の喪失など、地球規模の環境問題が深刻化する中で、リジェネラティブガーデンは、環境を再生し、人々の暮らしを豊かにするための有効な手段となります。
アメリカでは、環境再生型農業は、土壌の健康を改善し、環境負荷を低減するための重要な取り組みとして注目されています。 一方で、大規模化・省力化を重視してきたアメリカの農業において、環境再生型農業への転換には、まだ多くの課題が残されています。
今後、リジェネラティブガーデニングの普及に向けて、以下のような取り組みが重要となります。
リジェネラティブガーデニングに関する情報発信: リジェネラティブガーデニングのメリットや実践方法など、多くの人に知ってもらうための情報発信が重要です。
教育: 学校教育や地域活動などを通じて、リジェネラティブガーデニングの知識や技術を普及させることが重要です。
研究開発: リジェネラティブガーデニングに関する研究開発を進め、より効果的な実践方法を確立することが重要です。
政策支援: 政府によるリジェネラティブガーデニングの普及に向けた政策支援が重要です。
まとめ
リジェネラティブガーデンは、環境再生、食料生産、健康増進、地域活性化、教育など、さまざまな効果をもたらす持続可能な庭です。 リジェネラティブガーデニングは、地球温暖化や生物多様性の喪失といった地球規模の課題解決に貢献できる可能性を秘めています。 しかし、その普及には、情報発信や教育、研究開発、政策支援など、さまざまな取り組みを継続していく必要があります。 ぜひ、あなたもリジェネラティブガーデニングを実践し、地球を再生する庭づくりに参加しませんか?