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世界の自然環境調査測定ツールなど面白いものいろいろ集めてみました。

  • 執筆者の写真: 飯島 一郎
    飯島 一郎
  • 2 時間前
  • 読了時間: 8分
土の中に差し込んだアルミの探針と落ち葉の層
土の中の音を録る装置のイメージ。ピエゾ素子とアルミの探針(生成画像)

三重県菰野町で、庭木の手入れと里山の整備をしてる剪定屋空です。


世界で公開されている自然環境の計測ツールを集めました。研究機関の高価な機材ではなく、無料か、数万円で手に入るものばかりです。


地球上の生物種の59パーセントは、土の中に住んでいます。その土の中の音を録って生きものの多さを測る分野が、2024年に世界の保全課題として挙げられました。


木の値打ちを金額に変えるソフトも、iPhoneで幹の太さを測るアプリも、無料で配られています。


道具は、もう研究者だけのものではなくなりました。


1本の木が、年にいくら働いているか


アメリカ農務省フォレストサービスが、i-Treeという無料のソフトを公開しています。


樹種、幹の太さ、樹高、樹冠の広がり。この4つを入れると、その木が蓄えている炭素の量、1年で固定する炭素の量、吸い取っている大気汚染物質、受け止めている雨水の量が出ます。そして、それぞれに金額が付きます。


日本でも使われています。東京都内の街路樹272本を対象にした調査では、蓄えている炭素が27,820キログラム、金額にして565,374円。1年で固定する量が2,546キログラム、51,756円と算出されています。


1本あたり、年に190円ほど。


小さい数字に見えます。ただ、その木が30年立っていれば5,700円。10本あれば5万7千円分の仕事を、誰にも気づかれずに続けてきたことになります。


木陰は涼しい。それは誰でも知っています。金額になったとき、初めてその木は働いている存在になります。




iPhoneが、輪尺の代わりになる


ForestScannerという無料のアプリがあります。日本の研究者が作ったものです。

LiDARの付いたiPhoneを木に向けると、幹の直径を読み取って地図に落とします。輪尺を当てて手帳に書く作業が、歩くだけで終わります。


ここから先が面白いところで、点群と呼ばれる3次元のデータを、TreeQSMという無料のソフトに通すと、幹と枝の1本1本を筒として組み立ててくれます。枝の太さも、体積も出ます。


透かし剪定の前と後で、樹冠の体積が何パーセント減ったか。感覚で話してきたことが、数字になります。


樹幹に取り付けた計測器
幹の直径の変化を記録する装置のイメージ(生成画像)

木の呼吸を、1000分の1ミリで追う


チェコのTOMSTという会社が、点式デンドロメーターという道具を作っています。96ユーロ。


幹に取り付けると、直径の変化を1マイクロメートル未満の精度で記録し続けます。1ミリの1000分の1です。木部と樹皮を分けて測れます。


木は、日中に水を吸い上げて幹が細くなり、夜に回復して膨らみます。呼吸のような動きを毎日繰り返しています。


手を入れた木が、その後どう膨らみ直したか。乾いた夏に、どこで踏ん張ったか。木自身に語らせることができます。


同じ会社の土壌データロガーは88ユーロで、地中と地表と地上の3層の温度、そして土の水分を、電池1本で10年間記録し続けます。


鳥の声を、自動で名前に変える


BirdWeather PUCという装置が249ドルで売られています。単三電池3本で動く、手のひらに載る箱です。


中にAIが入っていて、録った音をその場で判定します。鳥が6,424種、カエルと一部の昆虫を合わせて6,522通り。コーネル大学とドイツの工科大学が作ったBirdNETという仕組みを使っています。


温度、湿度、気圧、二酸化炭素、空気の質を測るセンサーも同じ箱に入っています。鳥の声と、そのときの気温が、同じ時刻で並びます。


データはCSVで書き出せます。自分の記録として持ち帰れる。判定だけしてくれる似た製品は、データを外に出せないものが多いのです。


装置を買わなくても、BirdNET自体は無料で公開されています。手持ちのICレコーダーで録った音を流し込むだけで試せます。


水の中と、土の中


同じ設計の水中版があります。HydroMothといって、135ドル。水深30から60メートルまで沈められます。磁石でスイッチが入るので、濡れた手でケースを開ける必要がありません。


池や水路の音を録る研究は、2023年ごろに始まったばかりです。水面下20センチ以上に沈め、泥の気泡が収まるまで3分待ってから10分録音する。そういう手順が英国の論文で示されています。


水の中の音が録れるなら、土の中の音も録れるのではないか。


録れます。土壌音響学という分野が、実際にあります。


ミミズが土の粒をこすって動く音。甲虫の幼虫が体をこすり合わせる音。根が土を押し分けて伸びる音。それが土の中で鳴っています。


装置は驚くほど地味です。ピエゾ素子という小さな板と、アルミの棒。アンプ。録音機。アルミを使うのは、音を伝える速さが金属の中でいちばん速いからです(アルミは秒速6,420メートル、鉄は5,940メートル)。


届く範囲は、土の中で半径30センチから1メートル。深さは40センチほどまで。


英国の森林で、伐られたまま放置された場所と、再生が進んだ場所の土の音を比べた研究があります。音の複雑さを表す指標が、放置地で13、再生地で15。実際に土を掘って虫を数えた結果と一致していました。


南オーストラリアの再生地でも同じ傾向が出ていて、音の指標と虫の個体数の相関は0.60から0.69。


ただし土は音をよく吸います。6キロヘルツより高い音はほとんど届きません。しかも、湿った土や締まった土ほど強く吸う。


弱点ですが、逆に読めます。音の減り方そのものが、土がどれだけ締まっているかの手がかりになります。



虫を、寝ている間に数える


ドイツの研究者が、Insect Detectという自作の装置を全部公開しています。部品表も、設計図も、判定のプログラムも。


花の形をした台を置いて、そこに来た虫を自動で見つけ、その部分だけを写真から抜き出して保存し、その場で種類を判定します。太陽光パネルで動くので、ひと夏そのまま置けます。


一式で704ユーロ。記録用のカードは256ギガバイトあれば、虫の写真が3000万枚から5000万枚入ります。


センサーカメラの写真も、マイクロソフトが公開しているMegaDetectorという仕組みに通すと、動物が写っているものと空振りを自動で仕分けてくれます。カメラを仕掛けた人がいちばん時間を取られる作業が、一晩で終わります。


葉の色を、30分ごとに撮り続ける


アメリカに、PhenoCamという仕組みがあります。


定点に置いたカメラが30分ごとに同じ樹冠を撮り、写真の緑の濃さから、芽吹きの始まりと盛り、紅葉の始まりと終わりを日付で出します。


特別なカメラは要りません。普通のデジタルカメラで撮った写真の、赤と緑と青の値だけを使います。北極圏の調査では、高価な植生センサーの代わりにこの方法が採用されていました。


これは、今すぐ始められます。同じ場所、同じ方角、同じ画角で撮り続けるだけ。解析は後からでいい。


標高のデータで、水を読む


国土地理院が、日本全国の標高データを5メートル刻みで無料公開しています。


QGISという無料の地図ソフトに読み込ませると、雨がどこを通ってどこに集まるか、集水域と流路が図として出ます。東京大学と京都大学が作った水文地形データには、いちばん近い川からの高さの差まで入っています。


しがら工法は、水を止める技術ではありません。水を読んで、流れを緩める技術です。

その斜面の水がどこへ向かうかを、現場に立つ前に机の上で読める。手を入れた後、通り道がどう変わったかも図で示せます。


見上げた孟宗竹の竹林と樹冠
孟宗竹の竹林を見上げる(生成画像)

竹林の広がりを、宇宙から見る


ヨーロッパ宇宙機関のSentinel-2という衛星が、10メートルの細かさで、5日ごとに同じ場所を撮っています。2015年以降のデータが全部残っていて、無料です。


孟宗竹は、葉が入れ替わる時期がほかの木とずれます。1年を通した色の変化を見ると、竹林だけが違う動き方をする。高知市で、この方法で竹林の広がりを追った日本の論文があります。


整備が続いている竹林と、放っておかれた竹林。その10年を、面積の数字として並べられます。


もうひとつ。環境省の生物多様性センターが、2万5千分の1の植生図を無料で配っています。その土地の周りに何が生えているか、公的なデータとして持てます。


水を1リットル汲むだけで、そこに何がいるかを調べる環境DNAという方法もあります。魚も両生類も、捕まえずに一覧が出ます。環境省が手引きを公開しています。

測ることは、気持ちの反対側ではない


ここまで並べたものは、ほとんどが無料か、数万円です。値段が下がったこと以上に大きいのは、自分の土地を自分で測れるようになったことだと考えています。


ただ、道具を増やすことが目的ではありません。


庭の仕事は、気持ちでできています。この木を残したい。この庭を良くしたい。その気持ちに、技術を合わせていく。


数字は、木に対する解像度を上げるためにあります。測ると、それまで見えていなかった働きが見えてくる。


そして数字があれば、庭の値打ちを、その庭に関わる人と分け合えます。管理を頼んでくださる方も、隣に住む方も、次にこの土地を継ぐ方も。庭を守るのは、庭師ひとりの仕事ではありません。


道具は、そのための言葉です。


始め方は、いちばん安いものからで構いません。同じ場所を、同じ方角から、1年撮り続ける。溜まってから、何を足すかを考える。


三重県菰野町を拠点に、四日市市、鈴鹿市、いなべ市、桑名市、亀山市、津市ほかで庭木の手入れと里山の整備をしています。庭のことでも山のことでも、気になることがあればご相談ください。



参考文献


i-Tree(アメリカ農務省フォレストサービス)


ForestScanner(Tatsumi ほか 2023, Methods in Ecology and Evolution)


TreeQSM(アメリカ森林局の活用例)


TOMST TMS-4 / 点式デンドロメーター(チェコ)


BirdWeather PUC


BirdNET(コーネル大学 K. Lisa Yang Center + ケムニッツ工科大学)


HydroMoth(Open Acoustic Devices)


土壌音響学(Robinson ほか 2024, Proceedings of the Royal Society B)


土の音と森林再生(Robinson ほか 2023, Restoration Ecology)


Insect Detect(部品表・設計図・プログラム)


Insect Detect 論文(Sittinger ほか)


MegaDetector(Microsoft AI for Good Lab)


PhenoCam ネットワーク(北アリゾナ大学)


基盤地図情報 数値標高モデル(国土地理院)


QGISとGRASSで集水域を出す手順(日本語)


日本域表面流向マップ(東京大学・京都大学)


Sentinel-2(ヨーロッパ宇宙機関 / Google Earth Engine)


高知市の竹林拡大をSentinel-2で追った研究(農業農村工学会論文集)


自然環境保全基礎調査 植生調査(環境省 生物多様性センター)


環境DNA調査(環境省 生物多様性センター)




最終更新: 2026年09月

 
 
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