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壁の中に、鳥の部屋がある国|スコットランドが決めた法律と、日本のツバメ

  • 執筆者の写真: 飯島 一郎
    飯島 一郎
  • 16 時間前
  • 読了時間: 7分

外から見ると、ただのレンガ。


積まれた壁の一枚に、細長い口が開いている。中は空洞になっていて、鳥が入って巣を作る。


レンガの壁の開口に飛び込むアマツバメの墨絵

スイフトブリックといいます。


2026年1月28日、スコットランド議会が、すべての新築住宅に入れることを法律で決めました。


巣箱を建物に付けるのではありません。壁そのものを、巣にした面白い事例です。


決まったこと


Natural Environment (Scotland) Bill という法案の、修正案141として可決されました。


提出したのはスコットランド緑の党のマーク・ラスケル議員。


スコットランド政府と、党派をまたいだ議員たちが支持しています。


条件は、合理的かつ適切と判断される場合。


実際の建築基準は今後12か月の協議で決まり、2027年から適用される見込みです。


英国の中で、義務化したのはスコットランドが初めてです。イングランドは4年間キャンペーンが続きましたが、法定の義務ではなく、計画指針の中で参考として触れるにとどまっています。


議会でこう述べられました。


この象徴的な種は、かつてスコットランド中、とくに都市部でごく普通に見られる鳥でした。


しかし今は脅威にさらされ、1995年以降60パーセント減少し、保全上の懸念が高い種の赤いリストに載っています。


ジリアン・マーティン気候変動対策・エネルギー大臣の発言です。 (The Guardian 2026年1月28日


壁の部材として、規格がすでにあった。

ここが大事なところです。



2022年3月、英国規格協会が BS 42021:2022 という規格を出しています。


日本語にすると、組み込み型巣箱、新築開発における選定と設置の仕様。


つまり、壁に組み込む巣箱の作り方と付け方が、建築の規格としてすでに決まっていた。だから、義務化できたという話です。


壁の一枚が巣室になっている構造の図

現場の目安はこうなっています。


高さは4.5メートル以上。南向きは避ける。


アマツバメは集団で巣を作る鳥なので、切妻の端に2つか3つまとめて入れる。


大きな開発では、1住戸あたり1個の割合で。


レンガ張りにも石張りにも、塗り仕上げにも合う。木造にもレンガ造にも対応する。空洞壁の中にそのまま収まる。


そして、この一行がとても重要です。


設置後の手入れは要らず、下を汚さない。


(NES Swifts 巣の習性と要件 2026年1月版


なぜ、お願いではだめだったのか?


イングランドのやり方は、計画許可の条件として巣箱の設置を求めるものでした。強制ではなく、条件です。


その結果を、シェフィールド大学が調べています。


計画条件で設置が求められた鳥とコウモリの巣箱のうち、75パーセントが一度も設置されなかった。


4分の3です。



後から付けるものは、付け忘れられる。でも壁の部材なら、積まないと壁が完成しません。


後付けの巣箱と壁として積む巣室の比較図

義務化の本当の意味は、そこにあると思っています。


善意に任せる仕組みは、善意がある人のところでしか動かない。


部材にしてしまえば、意志の強さに関係なく残る。


なぜ、このような巣がが要るようになったのか。


断熱です。


改修と現代の断熱工事によって、何百万もの屋根が巣の場所を失いました。


省エネのために隙間をふさいだ結果、そこに住んでいた鳥が行き場をなくした。


アマツバメは、崖や洞窟、洞のある大木にも巣を作ります。


ただしそれは世界全体のごく一部で、大多数は人の建物に頼っています。同じことがイワツバメにもツバメにも言えます。


つまり、建物に依存する鳥たちです。


そして、アマツバメには特異な性質があります。


巣の場所に100パーセント忠実で、渡りから戻ると、まっすぐその場所へ帰ってくる。


簡単には引っ越しできないということ。


修繕でふさがれた壁へ、次の春も帰ってきてしまう。


減っている理由は、気候変動、昆虫の減少、そして巣の場所の喪失。


最後の一つは、建物の修繕と改修が主な原因だと書かれています。


アマツバメがレッドリストに載ったのは2021年12月。


イワツバメも同時でした。


ヨーロッパとサハラ以南アフリカを結ぶ渡りの経路にある、重要な中継地。


ここでは数十年前から同じ方針をとってきました。環境大臣のジョン・コルテス教授が、こう述べています。


この岩の上で、私たちは数十年にわたってこの政策をとってきました。減少していたアマツバメの個体数が、まず安定し、そして増加しました。


やれば戻る、という実例があるということです。


日本のツバメは、別の鳥です。


ここまで書いてきたアマツバメと、日本の軒先にいるツバメは、別の科の鳥です。


アマツバメは壁の空洞に入ります。


ツバメは軒下に泥で巣を作ります。だから、スイフトブリックをそのまま日本へ持ってきても、ツバメは使いません。


日本家屋の軒下に泥でつくられたツバメの巣と雛の墨絵

でも、減っている理由の芯は同じでした。

人間が住むの建物の構造が変わったこと。


日本のツバメには、世界に誇れるデータがあります。


日本野鳥の会が、2013年から2020年までの8年間、市民に呼びかけて集めた記録です。


のべ5,351人が参加し、10,586巣の観察情報が集まりました。年ごとの内訳まで公開されています。


分かったことは、こうです。


1つの巣から巣立つ雛は、8年間の全国平均で約4羽。


ただし市街地では3.8羽、それ以外の区域では4.2羽。


市街化区域の2,941巣と、それ以外の1,206巣を比べた数字です。都市化した場所は、子育てに適さない可能性がある。


そして子育ての失敗の要因のうち、1割弱が人による巣の撤去でした。


(日本野鳥の会 ツバメ全国調査2013〜2020 https://www.wbsj.org/activity/conservation/research-study/tsubame/result2020/


理由は、不衛生です。糞が落ちるから、落とされている。


さきほどのスイフトブリックの一行を、もう一度置きます。


設置後の手入れは要らず、下を汚さない。


壁の中に閉じた巣室があるので、糞は外に落ちません。日本のツバメの巣が落とされる、その理由が、あちらでは構造的に起きない。


同じ鳥の問題に見えて、建物の作りが違うと、争点まで変わります。


もうひとつ、日本のデータが教えてくれたことがあります。


過疎化で人口が減った地域では、人がいないことによって、卵や雛がカラスやヘビに捕食される危険が高くなり、営巣そのものが減っているということです。


ツバメは、人がいる場所を選んで巣を作る鳥です。人の出入りが、天敵を遠ざけていた。

だから人が去ると、守ってくれる存在も一緒に消えてしまう。


都市では人が巣を落とし、過疎地では人がいないから捕食される。どちらも、人との距離の問題があります。


日本で失われたのは、軒でした。


ツバメが減った背景として、日本野鳥の会は2つを挙げています。


ひとつは、里山や農地が減り、餌になる虫が少なくなったこと。


もうひとつが、西洋風家屋の増加です。軒のない家、壁面が加工されていて巣を作れない家が増えた。


スコットランドで消えたのが屋根と壁の隙間なら、日本で消えたのは軒でした。


減った実測も出ています。大阪府吹田市では、すいた市民環境会議が1998年と2010年の調査を比べて、巣の数が3分の1になったと報告しています。


石川県では昭和47年から、小学生が『ふるさとのツバメ総調査』を続けている。


しかもこの調査は、巣の数だけでなく、県の世帯数と米の作付面積をあわせて集計しています。


暮らしの側から、鳥の数を見ようとしている調査です。


環境省の繁殖分布調査でも、1974年から1978年と、1997年から2002年を比べて、繁殖がかなり少なくなったことが分かっています。



木の側から、できること


私たちは建物ではなく、庭と木の側にいる仕事です。


壁に部屋を積むことはできません。


でも、木に部屋を作ることはできます。


洞のある古木と、そこに止まる小鳥の墨絵

アマツバメが本来いた場所を思い出してください。


崖と、洞窟と、洞のある大木でした。


木の洞が無くなったから、鳥は壁に来た。


古い木を切り、洞のある木を危険な木として除いてきた結果が、そこに繋がっています。


街の壁に移り、その壁も断熱でふさがれた。


だとすれば、庭や山に洞のある木を一本残すことは、壁に巣室を積むことと同じ側の仕事です。


剪定屋空では、伐採した木から人工巣洞を作っています。


入口の直径を27ミリから30ミリにすると、シジュウカラやヤマガラが入ります。フクロウ用は190ミリ。数ミリの違いが、どの鳥が入るかを決めます。



法律ではなく、庭の一本から


スコットランドは、壁の中に部屋を作ることを法律にしました。日本には、その法律はありません。


でも日本には、市民が8年かけて数えた1万586巣という一次データがあります。


そして日本には、法律を待たずにできることがあります。


軒下の巣を落とさないこと。


糞受けを一枚つけること。庭の奥に、洞のある木を一本残すこと。


どれも、明日から変えられます。


庭木のこと、木を残すか切るかの判断、巣箱や人工巣洞の設置について、ご相談がありましたらお声がけください。


三重県菰野町の剪定屋空では、四日市市・鈴鹿市・いなべ市・桑名市・亀山市などで、庭と山の手入れを承っています。

最終更新: 2026年08月

 
 
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