三重県鈴鹿市庭園管理|さくらじま内科様(旧 沖中内科循環器科様)庭園年間管理11年の記録

三重県鈴鹿市のクリニックの庭を、2016年3月から手入れさせていただいています。

記録に残っている訪問は106日。年に8回前後、季節に合わせて手入れを行なっています。
11年のあいだに、木は屋根を越え壁を覆っていたつるは消えました。なかなか手こずったアベリアの植え込みのチガヤも消えました。
看板が見えなくなりサツキの樹高を下げたり、土中灌注したり、施肥をしたりいろいろなことをさせていただいています。
夏に葉が枯れ、5年見守って持ち直した樹木もあります。
この記事は、その11年の庭管理の記録です。
第1部 この庭にある木
はじめに、この庭に何が植わっているかを書いておきます。
樹種は14種。手書きの植栽図と、現場での確認によるものです。
正面・建物前 ズミ 1本 正面・建物前 シマトネリコ 1本(建物の角の株立ち) 正面・建物前 ツツジ 寄せ植え 正面・建物前 アベリア ホープレイズ 2本 玄関前の丸い植栽帯 エゴノキ 1本(株立ち) 玄関前の丸い植栽帯 ソヨゴ 1本 カーポート・通路 ナナミノキ 1本 カーポート・通路の奥 コハウチワカエデ 1本 カーポート・通路の手前 ヤマボウシ 1本 カーポート・通路と壁際 ヒイラギナンテン 6本 カーポート・通路 ニシキギ 1本 カーポート・通路 フッキソウ 3株 カーポート・通路 ヤブラン 3株 道路際・看板の脇 アベリア 生垣
ズミは別名が多い木です。ヒメリンゴ、ミツバカイドウ、コリンゴ、ヒメカイドウ、サナシ、コナシなどがあります。
いま無いものが2つあります
ヘデラ。外壁にまで伝っており当初入らせていただいた時は外壁を登りあまり綺麗なイメージではありませんでした。まずはこれをすべて取り除くことから始めています。少しずつ根から抜いて根絶しました。外壁から剥がすときは特に慎重にしています。


年間管理に入った最初の月の写真です。この日に残っている15枚のうち、8枚が外壁だけを写したものでした。庭の仕事より先に、壁の手入れが主になった思い出の写真です。
アベリアの生垣には当初チガヤが生えていました。鎌を使っても根が切れてしまい、うまく抜き取れない草です。
アベリア花壇全体の土壌改良を行い、抜きやすくしながら根絶しました。2016年から3年ほどかかっています。入れたのはバーク堆肥と油粕。簡易的な土壌改良です。
チガヤは、世界の10大雑草のひとつに数えられています。地下茎で広がり、他の植物の生長を抑える物質を出すことも報告されています。
雑草を取り除くのが困難であれば土のほうをまずはよくしてみて抜きやすい環境にする事も大切です。
取り除く前に、取り除ける状態をつくる。大事なことです。
第2部 写真で追う11年
1|玄関の前と、建物の裏

夏の手入れの日。

白い壁の前で、しゃがんで手を入れています。この庭の雑草は、機械を使わず手で取ります。砂利のところも含めて、庭全体を手取り除草しています。
この2枚が、この庭の2つの顔です。道路に面した表と、壁に囲まれた裏。
2|一番最初はこんなに小さかった

手入れを始めたころの玄関前の植栽帯です。木はまだ細く、低い。看板より低い位置に枝先があります。まずは支障がない程度に大きくしていくというご提案をしながら施肥などを行いました。

木が建物の高さに届いています。入り口前のシマトネリコ、ズミもだいぶ大きくなり、ツツジは一度小さくするためにかなり樹高を下げています。 このシマトネリコは自然樹形ではあまり形が整わないので仕立てながら剪定を行なっています。
3|看板が見えなくなった大きくなりすぎたツツジの切り戻し

ツツジも大きくなりすぎたので看板付近は樹高をかなり下げた時の様子です。
思い切って下げています。ツツジは強い木です。小さくしても枝から芽が出る。萌芽性がきわめて強く、3月から6月中ならばどこで手を入れても芽を吹いてきます。

2016年4月24日、2017年6月11日、2018年5月20日、2020年8月23日、2021年4月11日、2022年7月18日、2023年7月16日、2024年9月15日、2025年8月3日、2026年8月2日。同じ位置から撮った10年ぶんです。
2016年は建物の半分の高さでしたがシマトネリコの高さが2024年以降は屋根を越えています。
4|よくツツジが咲いてくれた年

白いツツジが満開です。
ツツジは花のあとすぐ、花芽ができる前に刈り込みます。遅れると翌年の花が減ります。
記録にツツジが満開で喜んで頂けたので、来年はゴールデンウィーク中か明けすぐに入ることと記録しており毎年ゴールデンウィーク中に花柄摘みなどを行います。
5|一番最初の年、こちらも
一番最初の年 こちらも全体的に樹木が小さくバランスが悪いのでまずは大きくしていくことを念頭に毎年軽剪定を行いました。

お手入れ当初の左にナナミノキと右手前にヤマボウシ、奥にはコハウチワカエデがあります。
ツツジの寄せ植えのボリュームの割に木が小さいのでこちらもまずは元気に大きくしていきますというご提案の元に手をいれさせていただきました。

大きくしていくことを念頭に。手入れの目的が、整えることではなく育てることに置かれています。だから毎年、軽剪定にとどめながら枝を増やしていく管理が大事になってきます。
6|ナナミノキ


ナナミの木もだいぶ大きくなり手入れのしがいがある大きな木に育ってくれました。

ナナミノキの剪定は難しく、鋏で細い枝を落とすと変な方向に徒長が出るから、手で芽を摘んだり太くなった枝と細い枝を大抜きして更新したり、色々改善を毎年試みています。
春の葉むしり(古葉取り)を行い無理な剪定はしないようにしています。剪定の記録は軽剪定ばかりで、強剪定は11年で一度もありません。枝の更新の為大抜きは毎年行っています。
7|エゴノキとズミ、手すりを使う人のために

2016年4月24日、2017年3月19日、2018年5月20日、2020年5月3日、2021年7月23日、2022年7月18日、2023年9月10日、2024年9月15日、2025年5月4日、2026年4月19日。

右のツツジの玉物の中にヤマボウシ、奥のコハウチワカエデもだいぶ大きくなりました。
落葉木でも枝ぶりが楽しめるように。

2016年6月26日、2017年9月10日、2018年4月8日、2021年4月11日、2025年6月1日。

ヤマボウシ 開花。



エゴノキとズミには、この庭ならではの決まりがあります。
エゴは自然樹形ぽくしているけど、横に手すりがあり、それを使う人に支障がないように手すり側と道路側の枝は外して、横と上に伸びるように剪定している。ズミも同じ。すぐ通路に飛び出る。

ここは病院です。手すりを使うのは、体の弱った方、お年寄り、杖の方です。その手が触れる高さに、枝を出さない。
庭の手入れは完全に自然へ任せることはできない。人が通り、人が手をかける場所だから。
それでも棒にはしない。外すのは手すり側と道路側だけで、残りは横と上へ、木が伸びたい方へ伸ばしています。
8|白いツツジ


ツツジ 8分咲き。蕾 多数あり
作業の記録簿です。そこに毎年、赤い字で花のことが書かれています。ツツジ満開。ヒイラギナンテン満開、色も香りも。ズミが満開。
何をしたかではなく、何が咲いたかを記録していくことも大事です。
9|丸窓の前


10|エゴノキの11年

落ちた花が地面を白くしています。

2016年4月24日、2017年9月10日、2018年4月8日、2020年3月20日、2021年5月3日、2022年7月18日、2023年5月5日、2024年9月15日、2025年6月1日、2026年8月2日。
この庭でいちばん変化の大きいシリーズです。丸窓の高さを目印にすると、木の育ちがそのまま測れます。

11|ズミと、毛虫

ズミの木に、毛虫の集団がいました。幹の分かれ目に白い糸を張り、樹皮に食害の跡と糞が残っています。
ズミにアメリカシロヒトリ(幼虫)除去/ツツジへゆっくり肥料+バーク/植木株元へオルトラン/水をたっぷり散水
アメリカシロヒトリは北米原産で、終戦直後に東京へ入りました。加害する樹種は600種に及びます(国立環境研究所)。日本の侵略的外来種ワースト100。ただしまったくの無毒です。有毒のチャドクガとよく間違われますが、これは誤解です。
英名は fall webworm、秋の巣毛虫。一般の資料は幼虫の出現を5月から9月としています。それがこの庭では4月11日に、花の盛りと重なって出ました。

小さな花が枝いっぱいにつきます。
12|ニシキギと、生垣

ニシキギはあまり成長はしてないけど、今後大きくなれば、ナナミノキの横だから光がニシキギに届くように、もう少し枝をナナミは間引くつもり。
ナナミノキを間引く理由が、ナナミノキ自身にありません。隣のニシキギに光を届けるためです。木を1本ずつみながらもお庭全体の木と木のあいだをみながら調整しています。

2016年4月24日、2017年9月10日、2018年2月11日、2021年4月11日、2022年3月20日、2023年3月5日、2024年3月31日、2025年3月30日、2026年3月22日。刈り込みの形が毎年そろっています。

13|アベリアの花期

淡い花が全体を覆っています。
アベリアには、この庭でいちばん回数の多い仕事があります。
アベリアは花期が長いけど、刈り込むと花芽が無くなるから、芽オリして調整して、年末に機械で刈り込むことをこのお庭ではしています。樹木ひとつとってもお庭の状況に合わせて手入れを変えていきます。
アベリアの花期は5月から初冬まで、庭木のなかでも飛び抜けて長い。その長い花期のあいだ、機械を入れれば花芽ごと落ちます。だから手で芽を折って形を保ち、花が終わった年末になってはじめて機械を入れる。
記録では徒長枝はずしは5月から9月まで毎月、11年で48回。14種で最多です。機械の刈り込みは11月から12月。強刈込は11年で1回だけ(2018年10月21日)。
11年、花を落とさないために手で触り続けています。
造園の本には、強度の刈り込みはできない、徒長枝を剪除することに充分注意するとあります。
14|シマトネリコが屋根を越えて大きくなってきた

玄関を覆いはじめたシマトネリコを整える。

シマトネリコが建物の上に大きく広がっています。このシマトネリコには、一般論と逆の手入れをしています。
シマトネリコは一般的には自然樹形のほうが良いとされてるけど、この株立は元々何本かのシマトネリコを寄せ集めて、おそらく3本で作られた人工的なものだから自然樹形には向いていません。
枝がお互いを絡めてきてしまうから、仕立てで剪定している。
同じ樹種でも、生い立ちが違えば、正しい手入れが逆になります。樹種名だけでは手入れは決まらない。その木がどう作られたかを読まないと決まらない。
花がらも手で摘んでいます。
シマトネリコはあと、花が多く美観もあるんだけど、栄養を吸い取られるから手で摘んだりして調整しています。
15|ツツジの花後


庭を汚さないための段取りです。


2016年

2026年9月

コハウチワカエデには、11年で起きた変化があります。
最初の年は徒長がいっぱい出てたけど、今はあまり徒長が出ない枝ぶりになってきます。
強く切り戻すと徒長がすごく伸びる。だから強めの剪定は避け芽オリを定期的におこなう。11年かけて、徒長が出ない枝ぶりになった。
落ち葉も、掃くのではなく落ちる前に取っています。
カエデは落葉前に、お隣様に落ち葉が落ちる可能性があるから落ち葉をむしり取っている。
この庭では、敷地の線を越える前に外しています。
16|冬の庭


12月は施肥と落ち葉そうじの月です。剪定・刈込も11年で9回と、5月に次ぐ多さ。一年を締める月になっています。
この庭の土の仕事は、年を追うごとに深くなっています。
2016年から バーク堆肥・油粕(チガヤの土壌改良) 2018年から バーク・くん炭・玉肥料・油かす。葉枯れのあと、施肥の記録が細かくなる 2022年3月 土中散布 菌力アップ100倍(100L) 2024年12月 わらぼっち設置 2025年3月 土中還注 2025年12月 アベリアにバイオチャコール
庭の枯れ葉や剪定した葉を漉き込んで堆肥にしたり今での色々と安定しないところは土壌改良を試みています。
その庭で出た葉が土に戻る。
17|夏の砂利

この庭は、砂利のところも含めて手取り除草です。機械のほうが速い。それでも手を使っています。 細かく手取り除草を行いながら除草剤散布は道路沿いなど樹木がないところに最小限に散布しています。
第3部 11年で見えたこと
1 いちばん多く使っている道具は、鋏ではないことに気づきます。
同じ庭の中で、木ごとに手のかけ方を変えています。
アベリアは芽オリ。機械で刈ると花芽が無くなる。花期が5月から初冬と長いから。
ナナミノキは新芽を折り、古葉をむしる。鋏を使うと変な方向に徒長が出るから。
コハウチワカエデは落葉前に葉をむしり取る。お隣様に落ち葉が落ちる可能性があるから。
シマトネリコは花を手で摘む。花が多いと栄養を吸い取られるから。
チガヤは土をやわらかくして手で抜く。鎌では根が残って再生するから。
庭全体が手取り除草。砂利のところも含めて。
そして刃物を入れる木にも、理由があります。
ツツジは思い切って切り戻す。小さくしても枝から芽が出るから。
シマトネリコは自然樹形にせず仕立てる。寄せて作った株なので枝が絡むから。
エゴノキとズミは手すり側と道路側の枝を外す。手すりを使う方に支障が出ないように。 アベリアは年末に機械で刈る。花が終わってから。
樹種名だけでは、この庭の手入れは1つも説明できません。
花期、枝の癖、根の切れ方、その木の生い立ち、通る人の体。全部ちがう理由で、全部ちがう手が入っています。
2 2018年という年
2018年7月23日、気象庁が臨時の記者会見を開きました。この暑さが一つの災害であるという認識があります。
同じ日、熊谷で41.1℃。当時の歴代全国1位でした。その年の7月、東日本の月平均気温は1946年の統計開始以来もっとも高くなりました。
その夏が、この庭の記録ではこう書かれています。
2018年8月26日 ヤマボウシ葉枯れ。赤字で 猛暑 異常気象 台風が早い時期から多発
2018年9月16日 カエデ・シマトネリコ・エゴノキ・ズミも葉枯れ。シマトネリコは幹もはがれている
2018年10月21日 幹のはがれ激しい。葉枯れは増えてはいない
2018年12月23日 葉・幹の様子は変わらず。枯れてはいなかった


記録にカエデ・シマトネリコ・エゴノキ・ズミも葉枯れと書かれた、その日の庭です。
鈴鹿市に気象観測所はありません。北へ約12kmの四日市アメダスで、2018年7月は27.7℃、8月は28.0℃。2016年7月の25.7℃、2017年の26.7℃を上回っています。
国の記録と、一枚の紙の記録が、同じ夏を別々の言葉で書いています。
3 シマトネリコの5年
幹がはがれた木に、何と見立て、何をしたか。
日焼けの可能性があるので、紙の記録ではこの時期に活性剤(メネデール・トップジン・リダス・花工房)の使用が繰り返し出てきます。
幹の日焼けは学術的にも認められている現象で、英語では冬の凍害由来を sunscald、夏の高温・日射によるものを sunburn と分けています(ワシントン州立大学 Extension)。ただし、この木がそうだったという証拠はありません。
そして2023年12月17日、記録にはこう残っています。
シマトネリコ 無事。よかった!

葉枯れの2018年から、5年が経っていました。そこからさらに3年で、木は屋根を越えています。
施主様には日焼けの可能性と伝え、活性剤で手を打って、5年様子をみてきました。
庭の年間管理のメリットは細かく庭の状態をみながら手入れを進められること。
木が弱りきっているものに無理に剪定する必要もないし、様子をみながら調整して
庭を健全な状態にもっていくことができるのが年間管理です。
それが年8回入る庭の強みです。一度きりの仕事なら、原因を決めて薬を打って終わりにするしかありません。
11年という年月をかけて庭の状況は変わり続けていく
11年という月日をかけて庭と一緒に過ごすと、ささいな事にも敏感に気づくようになります。今年は雑草の伸びが早いな。花芽が多いな。少ないな。
剪定の良し悪しは、その場では分かりません。手を入れた直後は、どんなやり方でもきれいに見えます。差が出るのは翌年、その次の年です。さらにお庭を10年単位でみるとどのような樹形に整えていくかなど考えていくことは山ほどあります。
だから時間を私たちは記録し続けています。
11年の定点写真と、106日ぶんの記録は、そのお庭の健康状態を知る、いちばん確かな手がかりです。
2016年、木は建物の半分の高さでした。いまは屋根を越えています。
壁のつるは消え、抜けなかった草も消え、徒長の出ない枝ぶりになりました。夏に傷んだ木は、5年かけて戻りました。
医院の名前は、2026年7月にさくらじま内科様へ変わりました。
看板の文字が変わっても、玄関のシマトネリコも、丸窓の前のエゴノキも、そのまま立っています。 次の10年をこのお庭とどう過ごすか。
これを考えていくのも庭管理の楽しみです。私たちが毎日いろいろなお庭に触れていても新しい発見が次々にでてくる場所。
それが庭。
これだけ夢中になれる仕事があるのは幸せなことです。






