庭の外まで設計に含める—17世紀の中国理論書が世界に届いた借景という発想
- 飯島 一郎

- 3 時間前
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お客様から時々こんな相談を受けます。塀の向こうの山が気になる庭から見えるようにしたいと。これはまさに借景の発想です。庭の境界を設計の終点としない考え方で、17世紀の中国でまとめられた理論が、長い時間をかけて世界の庭づくりに影響を与えてきました。
借景とは何か
借景とは、庭の外にある景色を設計に取り込む技法です。遠くの山、隣の林、川の流れ、季節の空
これらを庭の一部として見立てます。庭はただの囲まれた空間ではなく、視線が届くあらゆるものを含んで設計するという考え方です。
日本ではよく知られた概念ですが、その起源は17世紀中国の庭園設計書にあります。

計成と袁冶—17世紀の画期的な書
1634年、中国の造園家・計成は袁冶(えんや)という書を著しました。3巻からなるこの書は、中国庭園の設計思想と技術を体系的にまとめた、現存する最古の庭園設計書のひとつです。敷地の読み方、建物の配置、石組み、水の扱い——設計の全工程を詳細に記した書は、当時としては画期的なものでした。
袁冶の最終章が借景です。計成はこの章で、庭の境界は視線の届く先まで延びると述べています。塀の外の木、遠くの山、近隣の社の屋根——これらはすべて設計に含めることができる素材だという考え方です。遠くを借りる、近くを借りる、上を借りる、下を借りる、季節を借りる。借景には5つの種別があるとされています。
日本の庭と借景
袁冶は江戸時代に日本に伝わり、日本庭園の設計に影響を与えました。修学院離宮(京都)では比叡山を借景に取り込んだ設計が有名です。南禅寺の庭も、背後の如意ヶ嶽を庭の一部として見立てた構成になっています。武家屋敷から庶民の庭まで、借景という視点は日本中に広がりました。
背後の山を透かし見せる植栽配置、視線を誘導する石組み、空を切り取る土塀の開口部——これらはすべて借景の技法です。庭の中だけで完結させるのではなく、外の世界を引き込むことで、実際の面積より広い空間が生まれます。

現代の庭に借景を使う
現代の住宅地でも借景は有効な設計視点です。塀を低くする、剪定で空間をつくる、開口部の位置を工夫する——小さな操作で眺めが大きく変わることがあります。
三重県の山際の庭では、背後の山を視線に入れながら植栽を組む機会があります。遠くの杉林を借りて、前景に苔と石を置く。奥行きのない庭でも、視線の先を意識することで空間が広がります。庭の設計は境界の内側だけで完結しない、というのが計成の教えの核心です。
豆知識
袁冶は1631年に計成が書き上げ、1634年に刊行されました。清代には一時散逸しましたが、日本で写本が保存され、20世紀初頭に中国に逆輸入されて再評価されたという経緯があります。失われかけた東洋の庭園理論を日本が保存していたという点は、特筆すべき文化的事実です。(参照:中国造園古典文献研究)
よくあるご質問
隣の家の木を借景にしたい場合はどうしますか?
法的な手続きは不要ですが、隣家の木が将来伐採される可能性を踏まえた設計が必要です。依存するのではなく、前景で完結しつつ隣の木が加わったときにより豊かになる設計が理想的です。
借景の効果が出るような剪定とは?
視線を通すことが目的なら、枝を透かして空間をつくる剪定が有効です。目線の高さの枝を整理し、手前に視線の引き込みになる低い枝を残す。剪定屋空ではこうした視線設計を踏まえた剪定提案をしています。
小さな庭でも借景は使えますか?
使えます。空を切り取る土塀の開口部、隣の高木を遠景に見立てる植栽配置など、スケールに合わせた借景の使い方があります。大きな庭でなくても、視線の先を意識することで空間は広がります。
対応エリア
四日市市、鈴鹿市、いなべ市、桑名市、亀山市、津市、松阪市、菰野町、朝日町、川越町、東員町、木曽岬町
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