秋の彼岸が近づいたころ、赤い妖艶な花を咲かせるのが彼岸花です。
「曼殊沙華」という別名が良く知られているかもしれませんが、葉の時期には花がなく、花が咲く時期には葉がないことから、「葉見ず花見ず」という別名も持っています。
そんな彼岸花ですが、彼岸の時期に前触れもなく一斉に咲きだすのを不思議に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。実はこれは彼岸花の増え方に秘密があります。
彼岸花は普通の植物と違い種子ができません。そのため球根が分かれて増えるのですが、それによって増えた彼岸花は親と同じ性質を持つクローンとなります。したがって、日本中に生えている彼岸花は同一のクローンだと考えられており、咲き出す時期も同一になるということなのです。
しかし球根で増えるとなると、もう一つ大きな疑問が出てきます。彼岸花は日本全国様々な場所で見ることができますが、球根だけで増えるとすると、種子のように広範囲に分布を広げることはできないはずです。それなのになぜ、彼岸花はこれほど日本中に広がったのでしょうか。
実は、彼岸花は人の手によって全国に植えられていったのです。そのため、田んぼの畦道や土手など、人が暮らす場所の近くで咲き続けています。また彼岸花の根は植えた土壌を強くする性質があり、畦道や土手の土が崩れるのを防ぐために植えられたという面もあります。
時期が来るとあっという間に過ぎ去っていく彼岸花ですが、その背後にある人との長い歴史を思うと、また見え方が変わってくるのではないでしょうか。