森林浴はなぜ世界に広まったのか—1982年、林野庁が名づけた言葉が世界各国に届くまで
- 飯島 一郎

- 6月1日
- 読了時間: 4分

1982年、日本の林野庁は森林浴という言葉をつくりました。森の中に入り、木々の空気を浴びるように体を回復させる。当初は日本人を森に誘うためのキャンペーン用語でした。それが40年後の今、この言葉は形を変えながら世界各地に広まっています。
森林浴の誕生
1982年、林野庁が国民に森を歩くことを勧める取り組みを始めました。このとき使われた言葉が森林浴です。英語ではシンリン・ヨク(shinrin-yoku)として、そのまま輸出されました。当時はまだ科学的なデータは乏しく、森を歩くと気持ちがよいという経験則に基づくものでした。その後、医学と生理学の研究が追いつき、森の空気が体に実際に働きかけているメカニズムが解明されていきます。

科学が森林浴を支えた
1990年代から2000年代にかけて、千葉大学の宮崎良文らが森林浴の生理効果を定量化する研究を始めました。唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)の低下、収縮期血圧の低下、心拍数の変化——これらを客観的に測定することで、森の効果を科学の言葉で伝えられるようになりました。
日本医科大学の李卿(りせい)は免疫細胞(NK細胞)に注目しました。森林浴後にNK細胞の活性と数が有意に増加し、その効果が30日間程度持続することを確認しました。NK細胞はがん細胞やウイルス感染細胞を攻撃する免疫の重要な担い手です。研究結果は国際学術誌に掲載され、世界から注目されました。
なぜ森の空気は体に効くのか
木は揮発性の有機化合物を空気中に放出しています。ヒノキ、スギ、マツに特に多く含まれるこの成分はフィトンチッドと呼ばれます。もともとは病原菌から身を守るために木が放出する物質ですが、人が吸い込むと免疫系に作用することがわかっています。
森の中では視覚情報も変わります。都市の直線的で人工的な環境と異なり、森の曲線、揺れ、不規則なパターンは脳の緊張を和らげます。ドイツのマックス・プランク研究所の研究では、自然環境を歩いた後に脳の扁桃体(不安・恐怖処理)の活動が低下することが確認されています。視覚と嗅覚の両方から、森は体を回復モードに切り替えます。

世界へ
李卿らの研究を機に、森林浴は単なるキャンペーン用語から科学的根拠のある健康法として国際的に注目されるようになりました。韓国では森林治療士の国家資格が設けられました。ドイツでは森林療法が普及しています。アメリカでは自然と森林療法の協会(ANFT)が設立され、国内外で森林療法ガイドを育成しています。
日本語の言葉が、科学の裏付けを持って世界に広まるのは珍しいことです。森林浴の輸出は、日本の里山文化と生態学的感性が世界に通用した例として、剪定屋空はとても誇らしく思っています。
庭木とフィトンチッド
森に行かなくても、庭のヒノキやマツの近くにいるだけでフィトンチッドの恩恵を受けられます。特にヒノキはαピネン、β-ミルセン、カンフルなど複数のテルペン類を含み、香りと生理効果の強い樹木です。お庭にヒノキや松の木があるなら、その価値は見た目だけではありません。
豆知識
フィトンチッドという言葉は1928年にロシアの生化学者ボリス・トーキンが命名しました。植物(フィトン)が殺す(チッド)という意味の合成語です。日本では李卿の研究を機に一般に広まりました。樹種によって放出される成分が異なり、ヒノキにはαピネン・β-ミルセン・カンフルなどが含まれます。(参照:Li et al., International Journal of Immunopathology and Pharmacology 2009)
よくあるご質問
庭のヒノキは大きくなりすぎています。切っても大丈夫ですか?
剪定後もフィトンチッドは放出されます。むしろ切断面から揮発成分が増加することがあります。管理しながら適切な高さに保つことで、庭の中でヒノキの効果を長く享受できます。
森林浴の効果を高める歩き方はありますか?
意識的にゆっくり歩き、立ち止まって呼吸を深めることが推奨されています。宮崎らの研究では1回2時間・2日間の森林浴で明確な生理変化が計測されています。庭の中でも、意識的に木の香りを吸い込む時間を持つことが効果を高めます。
都市に住んでいても森林浴の効果は得られますか?
得られます。公園、植物園、庭——木があるところならフィトンチッドは放出されています。完全な森林と同等ではありませんが、研究では都市公園でも一定の生理的回復効果が確認されています。剪定屋空は、お庭を健康に機能させる木の管理をしています。
対応エリア
四日市市、鈴鹿市、いなべ市、桑名市、亀山市、津市、松阪市、菰野町、朝日町、川越町、東員町、木曽岬町
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