雑木の庭と、どう付き合っていくか。菰野町の山の家で、3日間の樹木管理と安全対策(2026年)
- 飯島 一郎

- 14 時間前
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更新日:2 時間前
ロープを掛けて幹を登り、地上から10メートルほどの高さで足を止めた。そこで初めて、その枯れ枝が見えた。
下から見上げていたときには、葉に隠れて分からなかった枝です。太さは腕ほど。付け根はすでに乾いて、指で押すと繊維が崩れる。真下には、住まいの屋根がありました。
雑木の庭の手入れは、登らないと始まらない。この日、あらためてそう思いました。

菰野町の鈴鹿山脈の麓、雑木の森が広がるお庭
三重県菰野町、鈴鹿山脈の麓にあるお宅です。敷地に、雑木の森がそのまま付いています。
家が先にあって、あとから庭を作ったのではありません。森が先にありました。
だから私たちが最初にしたのは、木を切ることではなく、この森がどのような生態系かを調べることでした。
この森は、コナラーケネザサ群集と呼ばれる林のタイプに近い構造を持っています。鈴鹿山脈の丘陵地に広く見られる、日本の里山に典型的な落葉広葉樹の二次林です。コナラを中心とする森は、日本の里山景観の代表であり、多くの生物を支える生態系として知られています。
この判断は、現地の正式な植生調査を行う前の段階で、周辺の自然環境と既存の資料から仮定したものです。
管理を続けながら調査を重ねて、内容は随時更新していきます。それが森と長く付き合う前提だと考えています。

雑木林は、4つの層でできている
雑木林を、木がたくさん生えている場所として見ると、手の入れどころが分かりません。層で見ると、見え方が変わります。
高木層、10メートルから20メートル。コナラ、ヤマザクラ、クリ、アラカシ。森の骨格を作り、林冠を作ります。林冠が閉じることで地表の温度が安定し、土壌の乾燥を防ぎ、雨水の衝撃を弱める。森の基本環境はここで決まります。森林生態系では、林冠構造が最も重要な要素とされます。
亜高木層、5メートルから10メートル。シデ類、ソヨゴ、ヤブツバキ。ここは森林更新の予備層です。上層の木が倒れたとき、急速に成長して次の森を作る世代になります。高木の枝打ちで照度をコントロールすると、この層が育ちます。
低木層、2メートルから5メートル。ガマズミ、ヒサカキ、シャシャンボ、コウヤボウキ、アセビ。森の内部の空間を複雑にします。低木層があることで林内の風が弱まり、湿度が保たれ、微気候が安定する。その結果、地表の乾燥が防がれ、落葉が林内にとどまりやすくなり、表層土壌が流れにくくなります。
林床、0.5メートルから1.5メートル。ケネザサ。林床を覆うことで表土の流出を防ぎ、土壌の湿度を保ち、腐植の形成を助けます。ただしササが過度に繁茂すると樹木の更新が阻害されるため、管理では調整の対象になります。
そして地表層。コケ、シダ、落ち葉。ここが森の分解システムです。落葉が微生物や菌類に分解されて、森林土壌が作られる。森の土がふかふかなのは、この分解がうまく回っているからです。
それぞれの層が独自の役割を担い、互いに補完し合って、ひとつの生命維持システムとして動いています。高木が作る光環境、低木や林床が守る土壌、地表で繰り返される循環。どれが欠けても、森は成り立ちません。
枝を打つということは、この4層のうち、どこにどれだけ光を落とすかを決めるということです。

だから、庭を5つに分けた
森は広い。どこから手をつけるべきか分からない、というのがご相談の出発点でした。
そこで敷地を5つのゾーンに分けて整理しました。
安全管理ゾーン。住まいの周辺です。危険木、建物に近い木、ツル、立ち枯れ。ここが最優先になります。
生活動線ゾーン。駐車場と園路。車の上の枝、枯れ枝、落ち葉の管理。
景観ゾーン。窓から見える森です。高木は残します。樹冠の内側の枝を抜いて、森の奥行きと光の抜けを作る。
危険木ゾーン。キノコが出ている木、内部が腐っている木、倒木のリスクがある木。
自然保全ゾーン。谷の地形、石積み、湧水の環境。ここは当面、手を入れません。
最後のゾーンが、この計画でいちばん大事だと考えています。手を入れない場所を決めることも、設計です。全部をきれいにすることが、庭の管理ではありません。
そのうえで、住まいに近い高木から順に、リスクを整理しました。今回は予算の中で、家屋への影響を排除して安全を確保する、1回集中型の施工としています。今あるリスクを最小限にするための第一歩です。

3日間で、何をしたか
1日目。クライミングの技術で登攀し、玄関横のタブノキとコナラの枯れ枝を除去。住まいに支障になる箇所の枝打ちをしました。枝打ちで出た丸太は薪のサイズにカットして、薪棚の近くへまとめています。そのあと玄関周辺の手取り除草と落ち葉掃除、森へ続く小道づくり。
2日目。玄関から向かって右奥のコナラの枝打ちから進め、脚立で駐車場周辺のシロダモとタブノキの枝打ち、枯れ枝の除去。道路沿いで立ち枯れていたコナラを伐採し、電線に支障が出そうな枝を剪定しました。
3日目。ユニッククレーン車を入れて、ヒノキとカシノキの、住まいに触れそうな部分の枝打ちを優先。タブノキの枯れ枝を除去し、混んだ部分を剪定して、長く伸びすぎて今後支障になりそうな枝を外しました。ネットケーブルにかかりそうな枝も落としています。
3日間で、軽トラック4車分を搬出しました。
太い枝の切り口には癒合剤を塗っています。切ることより、切ったあとをどう塞ぐかのほうが、木にとっては大きい。
樹形は、自然のまま残すことを基本にしました。樹種ごとの間隔とバランスを見て、森の景観を損なわない形を維持する。刈り込んで四角くするのとは、考え方が逆です。


切った木は、薪になる
出した材は、太い部分を薪として使えるように積み上げました。腐って薪にならない丸太は、いずれ虫の棲家として庭に置くことも考えています。
これは、思いつきの循環ではありません。この森が、もともとそうやって使われてきたからです。
燃料革命以前、この地域のコナラ林は、生活を支える炭の林でした。コナラをはじめアベマキ、クヌギといったブナ科の落葉樹が、切り株から芽を出して再生する性質を持っている。その生理生態に合わせて、20年から30年の周期で炭材として伐り続けてきました。今でもコナラの優占林に入ると、ひとつの切り株の上に数本の幹が育っているのが見られます。あれは伐られた歴史の跡です。
コナラは薪炭林の主要樹種で、15年から30年の周期の短伐期施業と萌芽更新によって、切り株から再生します。伐採した材は、しいたけのほだ木、薪、炭、チップに使えます(新潟県 ナラ枯れ被害の基礎知識 https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/life/784559_2485727_misc.pdf )。
薪ストーブに焚べる一本は、この循環の続きにあります。
庭木の教科書を開くと、コナラの扱いは意外なほど小さい。1966年前後に書かれた本では、ケヤキを落葉樹の王者格として重複する枝を間引く剪定法が説かれ、クリ、コナラ、ソロも同じ剪定法でよい、とだけ触れられています。ケヤキのような堂々とした貫禄には乏しく、代わりに侘びた風情を持つ樹種、という位置づけです(岡本省吾『伝統の庭木づくり』加島書店・国立国会図書館デジタルコレクション pid2515071・コマ68・p120)。
主役ではなく、侘びた風情。当時、コナラは庭木というより雑木であり、里山の木でした。その雑木が、いま庭の主役になっている。時代が一周したのだと思います。

キノコが教えてくれること
作業中に、林床でキノコを見つけました。
キノコは、庭の見立てで大事なサインです。ただし、出ている場所で意味がまるで違います。
幹や根元から、棚のように固いキノコが出ている場合。これは材質腐朽菌の疑いがあります。木の材を分解して支持力を落とし、倒伏を招く。サルノコシカケの子実体が出た木は樹勢の回復が難しく、倒木の危険があるとして伐採の対象になります。倒伏危険の目安として、腐朽による空洞率が50パーセントを超える、健全部の厚みの比率が0.3以下、といった指標が使われます(樹木医の診断事例 https://toshilandscape.co.jp/archives/8863 )。
一方、地面から出ているキノコの多くは、木の敵ではありません。コナラのようなブナ科の木は、外生菌根菌と根で手を結んでいます。菌は木からもらった糖で生き、木は菌の菌糸網を通じてリン酸や水を受け取る。地面のキノコは、その関係が生きている証拠であることが多い。
写真のキノコが何であるかは、同定していません。ただ、幹から出ているのか、地面から出ているのか。この違いを見るだけで、危険木の話なのか、健全な森の話なのかが分かれます。
危険木ゾーンの整理では、この見立てが効きます。

鹿が、角を研ぐということ
施主様から、鹿の角研ぎについてご質問をいただきました。この森でも、木に鹿の痕がつきます。
なぜ鹿は、木に角をこすりつけるのか。理由は3つあります。
ひとつ。角の皮をはがすためです。成長が終わった角は、骨のように硬くなります。鹿は木の幹にこすりつけて、血の通った皮を削り落とし、立派な角を完成させます。
ふたつ。繁殖期の準備です。秋になると雄鹿は繁殖期に入り、角は他の雄との争いや誇示に使われます。角研ぎは、角を整えると同時に、力強さを示す行動でもあります。
みっつ。縄張りと存在のアピールです。角をこすった木には傷が残り、匂いも付着します。これは他の鹿に対して、ここに強い雄がいる、というサインの役割を持つと考えられています。
時期は、秋です。角こすりは雄の繁殖行動と関係し、秋に発生します。交尾期は10月をピークにした2か月ほど。
8月の終わり頃には、雄の首まわりに黒いたてがみが目立つようになります。ヌタ場でスプレー状の尿をして、何度も転がって体に匂いをつけ、その体を地面や木にこすりつける。そして盛んに角こすりをします。遠くまで響く発情声も、縄張りを主張する行動と考えられています(林野庁 森林における鳥獣被害対策のためのガイド https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/pdf/gaide_all.pdf )。
ここで、大事な区別があります。
樹皮が剥がれる被害は、ひとくくりに樹皮剥ぎと呼ばれます。でも原因は2つあり、時期が違います。角こすりは、雄の繁殖行動として秋に起こる。樹皮を食べる採食は、食べ物の少ない冬に起こる(同ガイド)。秋の傷と冬の傷は、別のことが起きています。
痕の見分け方もあります。スギ・ヒノキでの調査ですが、判断の軸として使えます。
鹿による剥皮は、一年を通して起こる可能性があります。剥がされた樹皮は、大半が幅数センチ、長さ数十センチと細かく、地面に散乱します。樹皮を剥がされたあとの木部は、歯形が残らずつるっとしているか、ノミでえぐったような歯の跡が縦にも横にも斜めにも、縦横無尽に残ります。
対して熊による剥皮は、春先から初夏に発生します。剥がされた樹皮片は幅5センチ、長さ2から3メートルと大きく、バナナの皮を剥いたように木とつながって残る。木部には、こそぐような門歯の跡が、多くは3から4本、垂直方向に幾筋も残ります(岐阜県森林研究所 岡本卓也 樹皮剥ぎの見分け方・森林のたより2010年6月号 https://www.forest.rd.pref.gifu.lg.jp/rd/kankyou/mori100601.html )。
見分けを間違えると、効果のない資材を選んでしまいます。
では、樹木に何ができるのか
対策には、それぞれ効きどころと弱点があります。都合のいいことだけを書いても仕方がないので、両方書きます。
テープ巻き。樹皮剥ぎの対策として効果が高く、巻かれた樹木の被害はほとんどありません。ただし弱点があります。
テープそのものが劣化すること。
木が太る肥大成長でテープが食い込むこと。
人手がかかりコストが高いこと。
テープの色によって差があるとも言われていますが、明確な結果は出ていません。
さらに、テープを巻いた林の隣で同じ作業をしていない場所に、被害が移るという欠点もあります(前掲・林野庁ガイド)。
庭木で巻くなら、食い込みが一番の問題になります。巻いたまま忘れると、守るために巻いたテープが幹を絞めます。定期的に外して確かめる前提でなければ、巻かないほうがいい。年間で手を入れているから、これができます。
粗朶集中法。
守りたい木の根元に、除伐して出た枝葉や短い材を積み上げて、鹿の接近を妨げる方法です。
隣の木を防護する効果は高い。ただし人手がかかってコストが高く、林の中が雑然として歩きにくく、次の作業が難しくなる。下層植生は守れず、土壌流出対策や生物多様性の維持には向きません(同ガイド)。
忌避剤。被害が軽微な段階では有効と報告されていますが、鹿の密度が高まるにつれて被害は止まらなくなります(同ガイド)。
そして、ガイドがはっきり書いていることがあります。忌避剤もテープも、優良木のみに絞る対策として整理されている、ということです。
全部の木は守れない。守る木を決める。
これは、この庭で私たちがやったゾーニングと、まったく同じ考え方です。
粗朶集中法にいたっては、剪定で出た枝を捨てずに根元へ積む方法です。薪にする話、虫の棲家にする話と、まっすぐつながっています。山の技術は、そのまま庭で使えます。

山の手入れに通じること
里山の森は、手つかずの自然ではありません。
人が薪や炭を採り、落ち葉を掻き集め、それを繰り返してきたから、あの姿になりました。人の利用と自然の回復が繰り返されることで成立してきた森です。だから多様な樹種と、複雑な森林構造と、高い生物多様性を持っています。人の管理が適度に入ることで、多様な生物が暮らせる環境が維持されます。
雑木の庭も、同じです。
放っておけば自然に戻る、というのは半分しか当たっていません。放っておくと、光が入らなくなり、下の層が育たなくなり、次の世代の木が出てこなくなる。ある日、大きくなりすぎた木が家に倒れかかる。
切ることが、守ることになる。
森は、年月を重ねるほどに深みを増していきます。今回の3日間は、そのための第一歩でした。すっきりとした状態を見ていただきながら、これから先の維持管理のペースを、施主様と一緒に考えていきます。
作ってからが始まりです。庭も、森も。

三重県菰野町を拠点に、四日市市、鈴鹿市、亀山市、いなべ市、桑名市、津市ほか三重県内で、庭木の剪定・お庭の管理から、雑木の庭の手入れ、危険木の診断と伐採、竹林整備、森林整備まで承っております。お庭の木が家に近くて心配、森が付いた土地をどう管理すればいいか分からない、といったご相談も承ります。お気軽にお声がけください。
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