しがら工法 2か月半の記録。落ち葉の上で命はもう始まっています。
- 飯島 一郎

- 9 分前
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斜面にしゃがむと、一本の細い芽が目に入りました。

コナラの稚樹です。高さは指ほど。根元を見ると、まだ土ではありません。
去年の秋に落ちたばかりの、かさかさと乾いた落ち葉が重なっているだけです。腐葉土になるには、まだ何年もかかります。
その、まだ土にもなっていない落ち葉の隙間に、この芽は細い根を差し込んで、必死に立っていました。
ここは三重県亀山市、法因寺様の竹林斜面。
2026年3月27日に、私たちがしがら工法で土留めを組んだ場所です。あれから2か月半。
今日6月13日に再び訪れて、斜面に膝をついて数えました。
幼木、31本。
2024年から続けてきた法因寺様の竹林管理。


その中で、削れ続ける斜面を守るために、2026年の春に新しい一手を加えました。それがしがら工法です。
竹の杭を打ち、横木を編み、その中にコナラの落ち葉を贅沢に充てんしました。

落ち葉の中には、どんぐりが混じっています。木を植えるのではない。芽吹ける場所を、先に作る。
この記事は、その2か月半後の記録です。斜面で数えた31本の幼木、そこに現れた6種の草、そして一本のコナラの芽に感じた、はかなさと逞しさの記録。
現場で動いた気持ちの記録でもあります。

斜面としがら工法
法因寺様の竹林は、お墓の横の法面にあります。竹種は真竹(マダケ)。

地下茎が横に走り続けることで斜面の表土が少しずつ削れ、放っておくと法面そのものが失われていきます。施工前の斜面は表土がむき出しになり、雨のたびに土が流れ落ちていました。真竹の地下茎が地表に露出しているほどでした。

ここで私たちが選んだのは、コンクリートで固める工法ではありません。しがら工法です。
斜面に等高線方向で杭を打ち、横木を交互に編んで土留めの壁を作ります。
壁の上流側に落ち葉と粗朶を充てんします。
素材は、すべて自然に還るもの。
2026年3月27日の本施工では、杭29本、横木80本、粗朶100kg、コナラの落ち葉120kgを使いました。落ち葉にはどんぐりが入っています。
考え方の芯は一つ。水を止めるのではなく、水の流れを読んで添えること。
激しい流れを弱め、土が留まる時間を稼ぎます。その間に植物が根を張れば、最後は植物の根が斜面を固めます。木の杭が朽ちて土に還るころには、生きた根が土留めを引き継いでいます。
横木や粗朶はいろいろな種類を使っており、伐採出たものを活用しており在来種を選んでいます。また自宅にある大きなコナラの枝打ちで出たものも使用してます。
コナラは分解が遅く、骨格を長く保ちます。これからこのいろいろな木が混じったしがらが、どう朽ちていくかを観察データとして残せます。施工が完成ではなく観察の始まりになります。

この斜面がある真竹竹林は、2025年10月7日にかめやま生物多様性共生区域として認定されました。災害リスクを減らすことと、生きものを呼び戻すことを、同じ一つの作業で目指しています。


しがら施工当日の斜面全景。2026年3月27日
関連記事:三重県亀山市法因寺様竹林斜面 しがら施工・前段階の記録
三重県亀山市・法因寺様:手仕事で編み上げるしがら工法 植物が主役になるまでの足場づくり
しがらに現れた草たち。抜く・待つ・残すとい選択

施工から2か月半。しがらの上には、もう草が芽吹いていました。ここで大事なのは、草を全部抜くのでも、全部残すのでもないということです。
一本ずつ見極めます。私たちが斜面でしているのは、3つの目で草を分ける作業です。
抜く草


ヤブミョウガとヤブガラシです。ヤブミョウガは根茎を横に走らせて広がり、せっかく芽吹いたコナラの実生を押しのけます。今回、米糠を混ぜた箇所で特に勢いよく茂っていました。
ヤブガラシは蔓を伸ばし、地下茎が深く、幼木に巻きついて枯らしてしまいます。この二種は、手で丁寧に抜き取ります。
待つ草。


ツユクサとイヌタデです。どちらも一年草で、荒れた地面に最初に出てくる先駆種です。
土が落ち着けば、いずれ自然に後退していきます。競争力も強くないため、あえて手をかけず、役目を終えるのを待ちます。
残す草。
イノコヅチとクサイチゴです。イノコヅチは日陰でも育つ多年草で、実生と棲み分けができます。


クサイチゴはバラ科の小低木で、実を鳥が食べて種を運びます。鳥が来れば、別の木の種も運ばれてきます。生物多様性にとってむしろ味方になります。ただ手入れの時は棘に注意。
抜く・待つ・残す。この見極めがただの草むしりと里山再生を分けます。
自然を制御するのではなく、自然を読んで、必要なところにだけ手を添えます。



2026年6月13日 確認できた植生一覧

■ 確認できた草本
ヤブミョウガ/ヤブガラシ/ツユクサ/イノコヅチ(可能性あり)/イヌタデ(可能性あり)/クサイチゴ
■ 確認できた幼木(合計31本・最大成長高20cm)

コナラ 22本、ムクノキ 2本、クマシデまたはヤシャブシ 2本、クヌギまたはアベマキ 1本、ツルウメモドキ 1本(可能性あり)、同定中 3本
■ そだ(粗朶)から発芽

サクラ 1本、同定中 2本、合計 3本
※「そだから発芽」は、施工時に使用した粗朶(枝材)から直接芽が出たものです。いわゆるライブスタケ効果(生きた杭の発根)の可能性があります。
誰が育ちはじめているか

幼木31本。内訳は先ほどの植生リストの通りです。数字だけ見ると、ただの観察記録に見えるかもしれません。けれど、この31本がどれほど稀なことかを知ると、見え方が変わります。
竹林の跡地で、コナラは普通、自然には更新できません。
理由は一つではなく、四つの壁が重なっています。
一つ目。コナラのどんぐりは土の中で何年も眠る種ではありません。落ちて1〜2週間で発芽し、乾燥にとても弱い。だから竹を伐っても、土に眠っていた種が芽吹くことはありません。
二つ目。どんぐりを運ぶのはカケスやリス、アカネズミですが、暗くて餌の乏しい竹林には、彼らが立ち寄りません。種が運び込まれないのです。
三つ目。竹林の林床はとても暗く、相対照度は1〜5%しかありません。芽が出ても、竹が再生する速さに追いつけず、育つ前に枯れてしまいます。
四つ目。コナラと共生する菌根菌(ECM菌)は、コナラの成木が消えると土から失われます。芽が出ても、共生する菌がいなければ根づけません。
この四つの壁があるから、竹林跡にコナラは出てこない。それが普通の状態です。
どんぐり入りの落ち葉を充てんしたのは、種を運ぶ役と種そのものを兼ねさせるため。
土留めで光と土の時間を作ったのは、三つ目の壁を下げるため。落ち葉に近隣のコナラ林の土を含ませることは、菌をそっと連れてくることになります。
その結果が、この31本です。
この芽吹きは、よそから持ち込んだ緑化ではなく元の在来を調査して施工しています。
この土地が本来あった姿へ、自分の力で帰ろうとしている、その最初の一歩です。

ここで、冒頭の一本のコナラに戻りたいと思います。まだ腐葉土にもなっていない、乾いた落ち葉の上。養分のほとんどない場所で、あの芽は根を張っていました。

でも落ち葉をかき分けると水々しいぐらい潤っていて、色々な生物の棲家となってます。
どんぐりという種は、大きな子葉に養分を蓄えています。だから腐植のない場所でも、最初の根と最初の葉は、自分の体力だけで出せます。けれどその力には限りがある。それが尽きるまでに根が土へ届かなければ、芽は消えます。
これが、実生があれだけいろいろなところにある山の中でも淘汰され本の数本しか大きくならない樹種も多いのは、とてもはかなく弱々しくみれるけど同時に、これが逞しさの正体でもあります。
消えてしまうかもしれない。それでも今、根を必死に張っています。
はかなさと逞しさは、別々のものではありません。
一つのものの表裏。儚いから弱いのではない。儚さを抱えたまま立っているからこそ、逞しい。
私たちが斜面に膝をついて草を抜くのは、この一本が力を使い切る前に、根を土へ届かせてやりたいからです。
生物多様性共生区域としての記録

このしがら施工や竹林手入れをしている竹林の価値は、緑が増えたという量では測れません。
どんな生きものが、どれだけ戻ってきたか。その質も大事に測ります。施工後の観察では、しがらの内部でダンゴムシ、ミミズ、ハサミムシが見つかりました。
落ち葉が分解を始め、土の生きものが動き出した証拠です。
トレイルカメラにはタヌキが映りました。タヌキは決まった場所に糞をする習性があり、その溜め糞がコナラの種を運ぶことがわかっています。
竹の記録、植生の記録、生物の記録、発芽の記録。これらの、生態系が回りはじめた証拠になります。年を追って積み上げれば、それはこの土地の回復を語るデータになります。
同じことが、庭の一角でもできます
ここまでは10mの斜面を緑で包む時間軸の話です。けれど、この仕組みの面白さは、もっと身近にも味わえます。
庭の片隅に、落ち葉を集めて積みます。その中にどんぐりや、近くで拾った木の実をそっと混ぜておきます。
あとは、ゆっくり待つ。
翌春、何が芽を出すかはわかりません。コナラかもしれないし、思いがけない草花かもしれない。出てきた芽を見て、これは残そう、これは抜こうと、自分の目で見極めます。
環境を守る工法というと、専門家だけのものに聞こえるかもしれません。
けれど芯にあるのは、落ち葉に種を仕込んで何が出るかを待つという、ただそれだけの楽しさです。
大きな斜面と、庭の一角。スケールは違っても、起きていることは同じ。
命が土になる前の場所から始まっていきます。
家庭の自然花壇として、この遊びを庭に取り入れてみたい。そう思える方には、きっと向いている取り組みです。
1年後、5年後、10年後


しがら工法の時間軸は長いものです。
法因寺様の斜面で、私たちが見ている見通しはこうです。
施工から1年。
草本が定着し、土の中で菌のネットワークができはじめます。
今はちょどこの時期にいます。
5年後。低木やコナラの実生が定着し、斜面に高さが出てきます。
10年後。
竹の杭や横木は土に還りはじめます。
けれどそのころには、植物の根が斜面をしっかりと固めています。人が組んだ構造物は消え、生きた根がその役目を引き継ぎます。
構造物が朽ちて消えること。それを失敗とは呼びません。
むしろ、それが完成です。
人の手が自然に還るための起点になり、あとは自然が続きを担っていく。
消えていくことが、成功。
作って終わりではない。作ってからが、始まり。
この斜面が緑豊かな土地へと還って姿を見守り続けます。
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