木を植えるのではなく、芽吹ける場所を作る—三重県法因寺 真竹竹林管理・しがら工法の記録
- 飯島 一郎

- 4月15日
- 読了時間: 6分
三重県亀山市にある法因寺様の真竹竹林で、2026年4月14日にしがら工法の経過観察をおこないました。午前中は枯れ竹の除去・整備が中心です。
竹林全体の密度と光環境を整える。それが今回の作業の軸でした。

2025年12月29日から2026年4月14日まで、約3.5ヶ月間にわたる経過をタイムラプス動画に収めました。177コマ・47秒の縦型映像です。季節の変わり目に合わせてどう変化したかをまとめています。 約3ヶ月と短い間ですが下草が少しずつ茂ってきてるのが確認できます。
今回のトレイルカメラにたぬきが映っておりました。

タヌキは里山の代表的な哺乳類で、三重県を含む本州の森林・農地・竹林に広く生息しています。夜行性で、昆虫・果実・小動物を季節に合わせて食べる雑食性です。
注目したいのは、タヌキが持つ種子散布者としての役割です。タヌキには同じ場所に繰り返し排泄する溜め糞の習性があり、その溜め糞の91%以上に植物の種子が含まれているという調査があります。
コナラのどんぐりも例外ではなく、タヌキの消化管を通った種子が溜め糞の周囲で発芽することが確認されています。
カケスがどんぐりを土に埋めて森を広げるように、タヌキも溜め糞をつうじてコナラをはじめとする木本植物の種を運びます。しがら工法で落ち葉が積もり、有機物が増えてきた環境に哺乳類が入ってきたこと。それは植生回復を加速させる可能性を持った変化でもあります。

午後はしがら斜面の観察に移りました。落ち葉に水が十分浸透していました。

しがらの内部をのぞくと、ダンゴムシ・ミミズ・ハサミムシ、そして白い小さな虫が大量に確認できました。有機物が分解されながら、土へと還りつつあります。しがら工法は、土を固めるための構造物ではなく、生き物が動ける余地をつくる仕掛けです。その差は、数ヶ月後の植生にはっきりと出てきます。

しがらの充填材として使った落葉の中で、コナラのどんぐりが発芽していました。かなり長い根が伸びていました。充填材にどんぐりが混入し、しがら内部の保湿環境が発芽を後押しした可能性があります。 しがらを施工してから2週間ぐらいでこの様な変化が見れました。
この光景を見て、カケスという鳥のことを思い出しました。カケスはコナラのどんぐりを地中に埋めて冬の食料として蓄える習性があります。食べ残したどんぐりが翌春に発芽し、コナラの分布が広がっていく。今回のしがら工法は、まさにそれと同じことを人間がやっていることになります。コナラを植えたのではなく、種が自然に芽吹ける場所を整えてるということがいかに大事かこの観察から分かります。

今回はしがらの中に3つの試験区を設置しました。それぞれに米糠、竹酢液、竹炭資材を加え、植生・分解速度の変化を今後比較していきます。

令和8年3月27日に施工時に米糠は落ち葉と一緒に漉き込んでいます。
米糠区は、落ち葉に米糠を混合した箇所です。他の区と比べて落ち葉の層が明らかに凹んでいました。米糠が微生物の活性化を促し、落ち葉の分解が早まった可能性があります。
令和8年3月27日に施工記録

竹炭区は、先日竹炭つくり体験でお裾分けしていただいた竹炭を使用し落ち葉に組み込んだ箇所です。土壌改良・保水・微生物促進の効果を期待し、経過を観察します。

竹酢液区は土壌に竹酢液を散布してみました。土壌殺菌・有機酸による土壌改良効果を確認していきます。竹酢液と木酢液の違いについて調べてみました。どちらも燃焼の際に生じる煙を液化したものですが、原料によって成分の構成比が異なります。

竹酢液はフェノール含量が高く、抗菌力と土壌微生物への働きかけの両面で優れているとされています。地域で整備した竹を原料にした竹酢液を使うことは、資源の循環という意味でも理にかなっています。木酢液は広葉樹や針葉樹が原料で、土壌の殺菌や忌避効果が主な目的として使われます。どちらを選ぶかは、目的と現場の状況によって判断します。

今回は合わせて斜面上部部分にも竹酢液を散布

2025年のラインセンサスでは竹林周縁部を中心に10種を確認しました。2026年は竹林内としがら斜面を合わせて確認。カラスウリ・ウバユリ・アカメガシワ・コナラ発芽など、写真で確認できた種も増えています。

竹林内では、モミジ実生も確認できますこうした多様な植物が育ちはじめたとき、竹林は少しずつ違う顔を見せはじめます。
2025年と2026年の植生調査を一覧化しました。今後の経過観察の基準として活用していきます。
次回の焦点は、コナラの実生が落ち葉層を突き抜けて定着できるかどうかです。米糠区・竹炭区・竹酢液区の3試験区で、どのような差が出るかも見ていきます。しがら構造物が朽ちて土に還るより先に、木本植物が根を張れるかどうか。今年の夏前ごろには見えてくるはずです。
法因寺様の竹林での手入れは毎年、自然のペースに合わせて考える時間になります。整備するのではなく、場所をととのえる。その違いを、コナラの芽がまた教えてくれました。
法因寺様の竹林は、2025年10月に亀山市からかめやま生物多様性共生区域として認定されました。市が令和5年度から始めたこの制度は、市内に点在する価値のある自然環境を見える化し、保全と再生を後押しするものです。認定式には施主様が出席され、認定状を受け取られました。

過密化した真竹林を皆伐するのではなく、光と風と生き物が動ける場所として整えていく。その継続が評価されました。認定後も施工は続いています。
孤立した一本の木や一面の竹林として見るのではなく、草地・林・ 水辺・農地な周辺環境も含め組み合わさったモザイクとして場所を捉えることが重要だと感じます。
里山はこのモザイク構造を持つ複合生態系であり、多様な種が共存できるのはその複雑さゆえだとされています。そして管理の強度にも適切な範囲があり生態学には中程度撹乱仮説という考え方があり、手入れが多すぎても少 なすぎても生物多様性は下がると言われています。
管理しないと暗い竹林が広がり、多くの植物が消える。過剰に介入しすぎると、定着しかけていた植物が根を張る前に消えてしまう。
自然を管理するとは、その連鎖を読み、次の一手がその連鎖を壊さないか問い続けることだと思っています。
認定区域であることは、ゴールではなくあくまでスタートです。











