三重県のネイチャーポジティブ|制度の全体像と、認定された竹林の現場から
- 飯島 一郎

- 3 時間前
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三重県亀山市の竹林で、コナラの幼木を22本数えました。

2026年6月13日のことです。マダケが9割を占めていた斜面に、竹を間伐してしがら工法で土を止めてから、幼木が31本立ち上がっていました。そのうち22本がコナラ。
いちばん背の高いもので20センチほどでした。
その竹林は令和7年度、かめやま生物多様性共生区域に認定されました。市の公文書に、私たちが現場でやってきたことが、市の言葉で書かれています。

この記事では、いま世界と日本で動いているネイチャーポジティブという枠組みを、制度の全体像から、三重県亀山市の実例、そして私たち剪定屋空が現場で実際にやっていることまで記事にしてみました。
長い記事ですが、三重県で山林や社有林、緑地をお持ちの企業のご担当者様が、この一本で全体像をつかめるように書きました。
ネイチャーポジティブとは何か
ネイチャーポジティブとは、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復に向かわせるという世界の約束です。日本語では自然再興と訳されます。
大事なのは、減らさないではないことです。
増やす。マイナスをゼロにするのではなく、プラスに転じさせる。だから前向きという言葉が入っています。
出発点は2022年12月です。生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、2030年までの世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択され、その2030年ミッションとして、生物多様性の損失を止め反転させること、すなわちネイチャーポジティブが掲げられました(出典: 環境省 ネイチャーポジティブ経済移行戦略)。
気候変動にカーボンニュートラルという言葉があるように、生物多様性にはネイチャーポジティブという言葉がある。そう並べると、位置づけがつかみやすいと思います。
そして2024年3月、日本では環境省・農林水産省・経済産業省・国土交通省の4省庁連名で、ネイチャーポジティブ経済移行戦略が策定されました。自然の保全を経営の重要課題として位置づける、ネイチャーポジティブ経営への移行を国が後押しする戦略です。
環境の話が、経済の話になった。ここが今の時代の転換点だと考えています。
30by30。世界は面積で約束した
昆明・モントリオール枠組の中で、いちばん知られている数値目標が30by30(サーティ・バイ・サーティ)です。
2030年までに、陸と海のそれぞれ30パーセント以上を健全な生態系として保全する。
いま世界の保全地域は、陸が17.6パーセント、海が8.4パーセントです(出典: UNEP-WCMCとIUCNによるProtected Planet報告)。
残りは4年。保護区を増やすだけでは、この数字には届きません。
そこで鍵になるのが、OECMという考え方です。

OECMは、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域のことです。国立公園のような保護区ではないけれど、結果として生きものが守られている場所。人が手を入れて、使い続けている場所も含まれます。
つまり、里山や竹林、山林、企業緑地なども該当します。
手入れされた雑木林。竹林。棚田。神社やお寺の鎮守の森。企業の敷地の緑地。人の営みと自然が重なってきた場所が、世界の30パーセントに数えてよい場所として国際的に認められました。
これは、私たち造園業にとって大きな意味を持つ転換だとも感じています。
人が関わり続けることが、保全の一つの形として世界に認められたからです。
日本の受け皿。自然共生サイトという制度
日本でOECMの受け皿になっているのが、環境省の自然共生サイト認定制度です。
民間の取組などによって生物多様性の保全が図られている区域を、国が認定します。
2026年3月時点で累計およそ569件。認定された区域は国際データベースに登録され、30by30の達成面積として数えられます(出典: 環境省 自然共生サイト)。
2025年4月には、地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律(地域生物多様性増進法)が施行され、この仕組みは法律に基づく制度になりました。

そしてもう一つ、企業のご担当者様に知っていただきたい制度があります。
支援証明書です。
自然共生サイトを自分で持っていなくても、誰かが守っているサイトを支援すれば、その支援を環境省が公的に証明する。それが支援証明書の仕組みです(出典: 環境省 支援証明書)。
土地を持たない企業でも、地域の自然への貢献を、国の証明つきで自社の報告に書ける。ここが要点です。
企業はどう測るのか。TNFDとLEAP
では、企業は自然との関わりをどう測って、どう開示するのか。
その国際的な枠組みがTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。
企業が自然への依存と影響を把握し、リスクと機会を管理して開示するための枠組みで、採用は世界で730組織を超え、日本の組織がその約4分の1を占めています(出典: TNFD Adopters)。
TNFDが推奨する評価の進め方が、LEAPアプローチです。

Locate(自然との接点を見つける)、Evaluate(依存と影響を評価する)、Assess(リスクと機会を見極める)、Prepare(指標と目標を決めて開示に備える)。
この4段階です。
実例を一つ見てみます。ヤマハ発動機が2026年7月31日に発行したTNFDレポート2026です(出典: ヤマハ発動機 TNFDレポート2026)。
このレポートで、世界共通の中核指標として開示されている数字は、修復・復元された総面積、28ヘクタールでした。売上でも金額でもありません。面積です。
さらに2030年の目標として、製造拠点とその周辺にビオトープを5サイト造成する、と書かれています。場所の数です。
大きな会社が世界に約束している単位が、面積とサイト数。このことを覚えておいてください。あとで現場の話につながります。
ここから三重県の話です。
生物多様性の地域戦略を、三重県内の市町で最初に策定したのが亀山市です。令和5年度には、かめやま生物多様性共生区域認定制度という市独自の認定制度を創設しました。国の自然共生サイトに申請するのはハードルが高い、という場所の入り口になる制度で、これまでに14区域が認定されています(出典: 亀山市 認定区域一覧)。
令和7年6月25日には、市長が亀山市ネイチャーポジティブ宣言を発表しました。
宣言には、事業者の取組を支援し、積極的に協働します、という一文が入っています。
2026年4月には百五銀行と、ネイチャーポジティブの実現に向けたまちづくり推進の連携協定を締結。
亀山市ネイチャーポジティブ経営推進セミナー

8月26日には、そのキックオフとなるセミナーが亀山商工会議所で開かれました。
このセミナーに参加してきました。
講師は道家哲平さん。国際自然保護連合(IUCN)日本委員会の会長で、2018年に世界のOECMの定義と運用指針づくりに関わった当事者であり、日本人で初めてIUCNのNbS(自然に根ざした解決策)プロフェッショナル資格を取得された方です。
会場で、記録が残っていない場所は2030年に向けてどう目標を立てればよいのかと質問したところ、道家さんの答えはこうでした。
基準年は2020年でなくてよい。今、たとえば2026年を基準として、そこからどう進んでいくかを見ればよい。失った時間は取り戻せないので今から始めればよい。
そしてもう一つ、事業者に向けてこんな言葉がありました。
ここは自然林に戻していく、ここは経済としての林業をやっていく。そういうゾーニングのデザインや提案ができるようになると事業者として強くなっていく。ただ作業として入っているだけでは、業界として一歩踏み込んだことにならない。
どこを自然に返し、どこを使い、どこは触らないか。その線を引いて提案できる者になれということだと受け取りました。私たちの仕事のこれからの形だと思っています。
現場の実例1。法因寺様の竹林が、共生区域に認定されました

制度の話を剪定屋空の活動に当てはめて解説していきます。
三重県亀山市の宝亀山法因寺様。
市街地の中心部にある寺院の北側斜面は、マダケが優占する竹林でした。私たちは2025年から、この竹林の再生に取り組んでいます。

過密になった真竹を間伐し、光を林床に入れる。
伐った竹はその場で組んで、しがら工法という伝統的な工法で斜面に柵を作り、土と落ち葉を止めるという工法も取り入れています。
しがら構造物はやがて朽ちて、土に還ります。人工物が消えていくことが完成形の工法です。
この取り組みが評価され、法因寺様の境内地は令和7年度前期、かめやま生物多様性共生区域に認定されました。認定面積は0.0041平方キロメートル。0.41ヘクタールです。

市が公表している認定理由を、そのまま引用します。
本区域北側の法面は、マダケが優占する竹林であるが、広葉樹混交林を目指した管理を通して自然を豊かにする取り組みが行われている。
区域内には里地里山の生態系が維持されており、竹の間伐によって里山の雑木林を構成する樹種の生育が見られるようになり、里山林の土壌や落ち葉層に生息する生き物が見られるようになっている。また、斜面林は自然景観を維持し境内地としての雰囲気醸成に寄与するとともに、土壌の流出や斜面崩落などの災害リスクを軽減し、市街地中心部における貴重な緑地としてヒートアイランド現象の緩和にも寄与している。
(出典: 亀山市 かめやま生物多様性共生区域 認定区域一覧)
竹の間伐によって雑木林の樹種が育ち始めたこと。土と落ち葉の層に生きものが戻ったこと。斜面の崩落を防ぎ、まちの熱を和らげていること。現場で別々にやってきたことが、市の公文書では一つにつながって書かれていました。

上の写真は竹林斜面の表層崩壊が激しかった箇所を整備してしがらを設置する前の写真です。
しがら設置後


2026年6月13日、しがらを組んだ斜面で幼木を31本確認しました。そのうちコナラが22本。竹の下で眠っていた種が、光が入って目を覚ましたものです。

竹林内の植生調査は2025年4月のラインセンサスから始めました。タラノキ、アケビ、ウバユリ、ムクノキ、イヌビワ、アオキなど確認できており、施工当初覆われた竹林の下層には全くなかった低木植物なども生えてきています。
竹林の中に残っていた在来の植物を一種ずつ記録し、翌2026年4月にも現地確認を行って、二年分の比較ができる形にしています。
地面には落とし穴式のトラップ(ピットフォールトラップ)を仕掛け、土壌の生きものを調べています。2025年4月には落ち葉を分解するヒメフナムシを、9月にはカナブンの仲間を確認しました。土の中の栄養循環が動き始めたサインです。
木を植えたのではありません。芽吹ける場所を作ったら、森の側から芽吹いてきました。
この現場の経過は、こちらの記事で詳しく書いています。
現場の実例2。亀山里山公園みちくさで、支援する側の証明に挑んでいます
もう一つの現場が、亀山里山公園みちくさです。

かつての荒地を市民の手で里山に復元した公園で、年間1万人以上が訪れます。私たちは2026年5月、園の大きなクスノキの高所枝打ちと、フジヅルの除去をさせていただきました。
樹冠にはフジヅルが幾重にも絡みつき、枝に余分な荷重をかけ、内部への光を遮っていました。ロープで木に登り、樹上に2名が位置を取ります。枝を落とすのではなく、木全体のバランスと将来の樹形を見ながら、必要な箇所だけを選んで切る。地上では、直径数センチにもなったフジヅルの根元を切断しました。


フジヅルを取り除いた後の樹冠は見通しが良くなり、枝の内側まで光が届くようになりました。

この作業の詳しい記録は、こちらの記事にまとめています。
ここは環境省の自然共生サイトに認定されている里山公園で、私たちは2026年7月、園内の伐採木を使った人工巣洞(鳥の巣穴を再現した巣箱)を製作し、設置しました。

古い森には、キツツキが開けた穴や幹の空洞があり、シジュウカラやヤマガラはそこで子育てをします。若い里山にはその穴がまだありません。だから伐採した木を刳り貫いて、洞を先に用意する。同じ設計の人工巣洞は、鈴鹿市のさんぽ道でシジュウカラの入居と産卵を確認済みです。


そしていま、この支援活動について、環境省の支援証明書の発行を申請しています。2026年8月に申請を出し、審査は9月末の予定です。結果はまだ出ていません。取得できたら、この記事に追記します。
自然共生サイトを支援する側の証明。
先ほど制度の節で書いた仕組みを、自分たちで実際に通してみているところです。
企業の皆様にこの制度をご案内するとき、手続きの実感を持ってお話しできるようにするためでもあります。
設置の様子はこちらの記事にまとめています。
また、こうした活動のつながりから、私たちは国際的な里山保全の枠組みであるSATOYAMAイニシアティブ推進ネットワークにも加入しています。
桁は違っても、単位は同じ
ここで、ヤマハ発動機のレポートの話に戻ります。
世界の枠組みで開示されている中核指標は、修復・復元した総面積でした。
28ヘクタール。法因寺様の認定区域は0.41ヘクタール。桁は二つ違います。
でも、単位は同じです。
大企業が世界に報告する数字と、まちの竹林の数字が、同じ物差しの上に並ぶ。ここがネイチャーポジティブという枠組みの、いちばん面白いところだと思っています。

そして、面積のほかにもう一つ、現場にしか数えられない単位があります。本数です。
戻ってきたコナラの22本。巣洞に入った鳥。落とし穴に落ちたカナブン。こうした数字は、毎年その場所に通い、手を入れ記録し続けている者にしか出せません。
制度は上から降りてきます。でも数字は、現場からしか上がりません。
三重県の企業の皆様へ。私たちにできること
最後に、この記事を読んでくださっている企業のご担当者様へ。
社有林がある。工場の周りに緑地がある。手入れしきれていない山林を持っている。そういう場所は、これまで管理コストとして扱われてきたと思います。
その同じ場所が、いまは自然資本という資産として数えられる時代に変わりつつあります。ただし、資産として数えるには、そこに何がいて、何が起きているかを知り、記録することが要ります。
私たち剪定屋空がお手伝いできるのは、次のようなことです。
まず、現地を見て、一緒に考えることです。
お持ちの山林や緑地を実際に歩き、どんな樹種があり、どんな生きものの気配があるかを調べる。そのうえで、この場所はどう手を入れていくと自然が豊かになるのか、いまの環境の潮流とどうつながるのかを、ご一緒に考えます。
ゾーニングの視点で、ここは手を入れて育てる、ここは見守る、という線引きの提案もできます。道家さんの言葉を借りれば、何かしてくださいと言われて入るだけでなく、線を引く側の提案です。
次に、手を動かすことと、記録することです。
竹林の整備、雑木林の手入れ、人工巣洞の設置。施工だけで終わらせず、植生調査やトラップ調査で、手を入れた前と後で何が変わったかを数字と写真で残します。この記録が、認定申請にも、御社の報告にも使える土台になります。
規模の大きな現場は、信頼できる仲間の造園業者と連携し、私たちが調査と設計と監修を担う形でお受けすることも考えています。
そして、制度への接続です。
かめやま生物多様性共生区域のような自治体の制度から、国の自然共生サイト、支援証明書まで、どの制度がその場所に合うかをご案内します。
支援証明書は現在、私たち自身が申請して手続きを経験しているところです。
ネイチャーポジティブという言葉は、まだ耳慣れないかもしれません。
でも、その中身を現場から見れば、竹を伐って光を入れたら、コナラが22本芽吹いた、という話です。数えて、記録して、制度の言葉に翻訳する。その全体が、これからの自然との付き合い方になっていくのだと思います。
私たちは三重県で、庭の一本の木から、竹林、里山、そして制度まで、ひとつづきに向き合っていきます。
山林や緑地のこれからについて、考えてみたいと思われた企業のご担当者様。まずは現地を一緒に歩くところから、お声がけください。
この記事の一次資料
環境省 ネイチャーポジティブ経済移行戦略 https://www.env.go.jp/page_01353.html 環境省 自然共生サイト(30by30) https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/ 環境省 自然共生サイトに係る支援証明書 https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/certificate/ 亀山市 かめやま生物多様性共生区域 認定区域一覧 https://www.city.kameyama.mie.jp/docs/2024082800028/ ヤマハ発動機 TNFDレポート2026 https://global.yamaha-motor.com/jp/sustainability/environment/plan-2050/pdf/TNFD-Report_2026_Jp.pdf TNFD Adopters一覧 https://tnfd.global/engage/tnfd-adopters/







